ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 バキィィィッッッ!!
 鈍い音が広い庭園に響き渡る。
 真っ先に漆黒の群衆に飛び込んだのは、徳川直杉だった。
 彼女の最初の一撃で、五人の男が蹴り飛ばされたのだ。
 男たちが虚を衝かれたように動きを停止させる。
「何をしている!? 相手は女じゃないかっ!」
 だが、誰かの叱咤で男たちは直ぐ様我に返った。
 仲間をぶちのめされた怒りを漲らせ、再び襲いかかってくる。
「ハッッ!」
 直杉は冷静な眼差しで男たちを見分した。正面から殴りかかってきた男の腹に正拳突きを放ち、次に真横の男に蹴りを放つ。
「キャアッ! ナオちゃん、カッコイイ~♪」
 直杉の傍らで志緒が黄色い声援を発する。
「チッ、キリがないな」
 直杉は鋭く舌打ちを鳴らした。
 ガードマンたちはさほど強くはないが、数だけは多い。斃しても斃しても、敵が視界から消え失せることはないのだ。イライラするし、長期戦になれば直杉と雖も体力の消耗は否めない。
「志緒、離れるな」
 直杉は志緒の身体を片手で引き寄せると地を蹴った。
 常人では考えられないほど高く跳躍し、男たちが密集する箇所へ着地する。
 志緒を抱えていない方の手には、いつの間にか銀色の光が宿っていた。手から放出されるエネルギーは、槍の形をとっている。サイコプラズマを凝縮させた長槍――サイコスピアだ。
「ハァァッッ!」
 志緒を地面に降ろすと、直杉は逡巡することなくサイコスピアを地面に突き刺した。
 刹那、不吉な音を轟かせて地面が一気に膨張した。
 直杉がサイコスピアを引き抜くと、今度は急激に地面が陥没する。
 半径二十メートル以内にいた男たちが、突如として出現した巨大な穴に否応なしに呑み込まれる。
 穴の中心部にいる直杉と志緒の周りだけは、彼女たちを乗せる程度の大きさで陥没を免れていた。
「三十人は落ちたな――跳ぶぞ」
 直杉は深さ三メートルほどの穴を無感情に見下ろした。
 直後、再び志緒を小脇に抱えて跳躍する。
 己の造り出した穴を軽々と飛び越え、鮮やかに着地する。
「ナオちゃん、すっご~い!」
 志緒の陽気な声が一際高く響く。
 はしゃぐ志緒とは対照的に、ガードマンたちの間には驚愕と動揺の波紋が広がっていた。自分たちが闘っている相手が尋常ではない存在だという事実に、ようやく思い至ったのだ。
 狼狽する彼らの視線は必然的に直杉を離れ、無邪気に微笑む志緒へと移された。
 天使のように愛らしい少女を『人畜無害』と判断したのだろう。彼らは、焦燥に満ちた叫びをあげながら志緒目がけて突進を開始した。
「いや~ん。志緒、怖~い! ナオちゃん、お願い~」
「甘えるな。少しは働け、志緒」
 上目遣いに哀願の眼差しを注いでくる志緒に素っ気ない言葉を残し、直杉はまたしても軽やかに宙を跳んだ。
 あっという間に志緒に向かって雪崩れ込んでくる一団の頭上を越え、別の群れの中に姿を消してしまう。
「もうっ! ナオちゃんの意地悪~!」
 唇を尖らせて直杉を見送り、志緒は男たちに向き直った。 
 目前に迫った男たちにニッコリと極上スマイルを贈る。
「うふっ。可愛いと思って油断してると、痛い目に遭うわよ~! サイコプラズマ、ぜんか~い!」
 楽しげに告げた途端、志緒の全身から眩い光が放たれ、身体の輪郭が大きくぶれた。
 次の瞬間、志緒は三人に増えていた。
 サイコプラズマで分身したのである。
 あまりに妖異な光景を目の当たりにし、男たちが慄然と立ち竦む。
「なっ、何だ、ドッペルゲンガーなのかっっ!?」
「錯覚だ、錯覚っ! あの女に妖術に惑わされるなっ!」
 男たちの口から怯懦の悲鳴があげる。
「右からプリティ志緒ちゃん、キューティ志緒ちゃん、ラブリィ志緒ちゃんで~す♪」
 怯える男たちを尻目に三人の志緒が順番に元気よく挙手し、最後にウィンクする。
 直後、右端――プリティ志緒の姿が消えた。
「うわっっっ!」
 男の一人が絶叫を迸らせる。
 常識を覆すような速度で、プリティ志緒が男の懐に飛び込んでいたのだ。
 驚く男を魅惑の上目遣いで見つめ、志緒は満面の笑みを浮かべた。
「ごめんね~」
 愛らしい口調とは裏腹に、強烈なパンチを男の鳩尾に繰り出す。
 男は数メートル吹き飛ばされ、白目を剥いて地面に倒れた。
 間髪入れずに、周囲でも『ぐげっ!』『ぎゃあっ!』などという奇声があがる。キューティ志緒とラブリィ志緒も攻撃を開始したのである。
 気づけば、志緒の周辺では乱闘が巻き起こっていた。
 しかも、三人の志緒の独壇場である。逃げまどう男たちを三人の志緒が容赦なく薙ぎ倒してゆくのだ。
 その様は、阿鼻叫喚の地獄絵図に近いものがあった……。
「うふっ。志緒、楽し~い!」
 愉悦の微笑みを湛えつつ、三人の志緒は次なる犠牲者を品定めした――


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2009.08.26 / Top↑
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