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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.05.17[01:05]
「まだ話は終わってないわよ!」
 生徒玄関に到着したところで、水柯はようやく二人に追いついた。
 聖華学園の校舎は上空から俯瞰すると、凹の形をしている。
 正門から向かって左手に当たるL字型の部分が旧校舎、反対側が新校舎という造りなのだ。
 線対称を成すL字型の新旧両校舎の繋ぎ目――校舎正面に生徒玄関は位置していた。
「うるさいぞ。ついてくるな」
「仕方ないでしょ、同じクラスなんだから」
 鬱陶しげに振り返る樹里に、水柯は憮然と抗議した。
 それほど邪険に扱われる所以はないし、そもそも同学年同クラスで『ついてくるな』というのが無理な話だ。
「そうそう。行く先は一緒なんだから無茶言うなよ、樹里。さっ、行こうか水柯ちゃん」
 珍しく充が樹里の意見を退け、彼の武器とも言える柔和な笑顔を水柯に向けてくる。
「うわっ、充くん、優しい!」
 水柯は顔を輝かせ、弾んだ足取りで充の隣に肩を並べた。
「水柯ちゃんは可愛いからね。特別だよ」
「充くんも女に手が早いことを除けば、最高のフェミニストよね」
「ったく、何言ってんだか……。勝手に意気投合するなよ」
 ブツブツと不満を洩らす樹里を敢えて無視し、水柯は玄関から廊下へと身を移した。
 朝の廊下は生徒たちでごった返している。
 どこを見ても渋い緑色で埋め尽くされていた。
 二年生の教室は新校舎にある。
 水柯たちがそちらへ足を向けかけた瞬間、
「キャアッ! 徳川先輩よ」
 突如として緑の群れがどよめいた。
「朝からツイてるわ!」
「直杉(なおすぎ)センパイ、おはようございまーす!」
 女生徒たちの黄色い歓声が廊下を揺るがし始める。
 水柯はその凄まじさに驚き、思わず足を止めてしまった。
 目をしばたたかせながら周囲に首を巡らせる。
「徳川先輩、素敵!」
「ああ、いつ見ても凛々しいわ」
「あたしも先輩の顔見たーい!」
 少女たちの声は次第に増大し、生徒の大部分がその騒々しさに足留めを食らっていた。
「格好良すぎて、頭がクラクラするわ」
「徳川先輩、こっち向いて下さい!」
 悲鳴に近い歓声は、徐々に三人の方へ接近してくる。
「徳川か……」
 樹里が旧校舎方面の廊下を見つめ、不服げに呟く。
 ほぼ同時に、生徒たちが一斉に廊下の両脇に身体を寄せ、道を開けた。
「相変わらず派手ね」
 開かれた廊下の中央を颯爽と歩く人物を確認し、水柯は感嘆の声を洩らした。
 毅然と前を見据え、一人の人物が廊下を渡ってくる。
 頭の高い位置で一つに束ねられた癖のない黒髪が目を惹く。
 身に纏っているのは制服ではなく、白い袴だった。
 無表情に近い顔は、凛然としていて美しい。
 廊下を素足で歩く姿は典雅な雰囲気を醸し出していた。
 女子が騒ぐのも頷けるような美貌を誇る麗人――徳川直杉。
 水柯たちの同級生であり、二年生でありながら弓道部の主将を務める人物だった。




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