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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.08.26[21:28]
    *


「おおっ! 派手にやってるな、女性陣!」
 群がる男どもを蹴散らしながら、紀ノ國屋健治は呑気に口笛を吹いた。
 直杉と志緒の活躍が悲鳴と絶叫の数で伝わってくる。
「いのかよ? 馨センセんちの部下、全滅だぜ。アイツら、一人残らず叩きのめすに決まってる」
 苦々しげに高丸は呟いた。
 彼女たちの恐ろしさを身をもって知っているだけに、惨状が易々と想像できるのだ。
「オレたちも負けちゃいられないな! いくぜ、高丸っ!」
 紀ノ國屋が意気揚々と声を張り上げる。彼の全身はサイコプラズマの放出を示すように、黄金色に輝いていた。
 光が一際眩く輝き、スパークする。
 刹那、高丸の視界に白い影が飛び込んできた。
「うりゃあぁぁっ!」
 習慣とは恐ろしいもので、ソレを見た瞬間、高丸は反射的に助走をつけてジャンプしていた。
 宙に舞い上がりながら、絶好の位置にやってきた白球を掌にジャストミートさせる。
「うわぁぁぁっっっっ!」
 バシィッッ!!
 という激しい物音に、ガードマンたちの悲鳴が重なった。
 高丸が打った凄まじいスパイクが一人の男を直撃し、更に後ろの三人までもを吹き飛ばしたのである。
「ハッ、しまった! つい条件反射で――」
 身軽に着地し、高丸は茫然と己の右手を見つめた。
 バレーボールを見て、無条件に身体が反応を示してしまったのだ。
「流石、超高校級スーパーエースッ! お見事! 今の、時速百五十キロくらいあったんじゃねぇ? いやぁ、バレーボールを持たせたら向かうところ敵なしだねぇ、高丸くん!」
 紀ノ國屋が惚れ惚れとした口調で絶賛する。
 その手には、しっかりと白く輝くバレーボールが乗せられていた。立ち尽くす高丸の眼前で、次々と空中からバレーボールが生まれてくる。紀ノ國屋が空間移動で出現させているのだ。きっと、この近辺の各学校から少しずつバレーボールを拝借しているに違いない。
 高丸は長い腕を伸ばし、バレーボールを一つ奪った。片手で掴んだバレーボールを紀ノ國屋の脳天目がけて力の限り投げつける。
「バカッ! フザけてる場合じゃないだろっ!」
「いってーな、高丸! ちょっとぐらい遊んだっていいだろ!」
「ダメだ! さっさと茜を迎えに行くぞ! 屋敷はすぐそこだ!」
 紀ノ國屋の不満を冷徹に一蹴し、高丸は前方の屋敷に人差し指をビシッと突きつけた。
 百メートルほどの距離をおいた地点に、巨大な洋館が聳え立っている。
「チェッ! ナイスなスーパーコンビネーションだったのにな……」
「なぁ~にが、スーパーコンビネーションだ! このボケッ!」
 高丸は憤怒寸前の剣幕で凄んだ。
 茜の救出が最大の目的なのだ。
 紀ノ國屋や馨たちにはお遊びでも、高丸にとっては一大事。
 一刻も早く大切な親友を助けなければならない。
「行くぞ、紀ノ國屋」
 渋々とボールを手放した紀ノ國屋の金髪を引っ張り、高丸は駆け出した。
 必然的に紀ノ國屋も高丸に足を合わせなければならない。紀ノ國屋の口から『酷いぜ、高丸』という情けない言葉が洩れたが、故意に無視して高丸は疾走を続けた。
 闘争心と敵愾心を剥き出しにして躍りかかってくるガードマンたちを蹴散らしながら、屋敷を目指してひた走る。


 しかし、一分も経たないうちに足を止めざるを得ない事態に陥った。
 屋敷を取り囲むようにして巨大な池が広がっていたのだ。
 屋敷の正面玄関に繋がるようにアーチ状の橋が一本だけ架けられている――正しく、たった一つの架け橋だ。橋の上には夥しい数のガードマンがウヨウヨとしている。簡単には高丸たちを屋敷へ通してくれないだろう。
「チッ……面倒臭いな!」
 橋の上から注がれる男たちの殺気立った視線を感じて、高丸は忌々しげに舌打ちを鳴らした。
 橋を行くのは得策ではない――即座にそう判断を下し、高丸は屋敷と自分とを隔てる池へと歩み寄った。
「おっ、やるのか、高丸?」
 高丸が池の淵に膝を着き、片手を水面に翳したのを見て、紀ノ國屋が声を弾ませる。
 高丸は無言で頷き、意識を掌へと集中させた。
 己の裡を電流のようなものが駆け巡り始める。
 青白い冷気のようなものが全身を経由し、掌に集まってくるのを感じた。
「おおっ!」
 紀ノ國屋が歓喜の声をあげ、ガードマンたちが一斉にどよめきを発する。
 彼らの見守る中、瞬時にして池の水が凍り付いてしまったのである。
 今日は麗らかな春の日――そんなことは絶対に有り得るはずがない。だが現実に、池の水面は厳寒の冬さながらに凍結していた。
「紀ノ國屋!」
 高丸は何事もなかったかのように立ち上がり、紀ノ國屋を促した。
「オッケー!」
 威勢良く返事をし、紀ノ國屋は躊躇うことなく凍った池へと飛び乗った。
 高丸もすぐに紀ノ國屋の隣に並ぶ。二人は悚然とするガードマンたちを完全に無視して、氷上を軽快かつ迅速に疾駆した。
 高丸の持つサイコプラズマ最大のポイントは冷却と発火なのだ。高丸が本気になれば、どんなものも凍て付き、炎を噴き上げる。
「オレたち五人揃えば、世界征服も夢じゃないな!」
 氷の上を踊るように滑り――いや、滑るように踊りながら紀ノ國屋がクスクス笑う。
「……そんな野望なんかないぞ」
 高丸は呆れた視線を紀ノ國屋へ送った。
 確かに世界征服もできないことはないだろうが、生憎そんな下らないことに貴重な青春と情熱を費やす気は毛頭ない。
 高丸には『バレーボールで世界一になる』という壮大かつ素晴らしい目標があるのだ。
 ガードマンたちが度肝を抜かれて動けぬのを『これ幸い』と、高丸と紀ノ國屋は一気に氷上を移動して屋敷に接近した。
「行くぞ!」
「アイサッッ!」
 高丸の合図で、二人は同時に跳躍した。
 勢いに任せ、目前のガラス窓を突き破る。
 かなり乱暴な方法で二人は屋敷への侵入を果たした。
 ここまで来れば、あとは楽勝だ。
 外部にあれだけのガードマンを配置したのだから中は案外手薄に違いない。
 百合子を引っ捕らえて、茜を奪取するだけのことだ。
「紀ノ國屋、茜は何処だ!?」
 高丸は衣服に纏わりついたガラスの破片を払いながら、紀ノ國屋を振り返った。
 転瞬、紀ノ國屋は何を思ったのか、いきなり狂ったように踊り出したのだ。
「踊るなっ!」
 高丸は顔を引きつらせながら紀ノ國屋に歩み寄り、その襟首をしっかりと掴んだ。
「この方が神経を集中させやすいんだよ! ――茜は、三階の右奥の部屋だ!」
 高丸の腕を邪険に振り払い、紀ノ國屋が憮然と告げる。
 次の瞬間、高丸は目にも留まらぬ速さで部屋を飛び出していた。
 紀ノ國屋が慌てて後ろから追ってくる。
 予想通り屋内にガードマンの姿はなく、二人は何の障害も受けずに三階まで辿り着いた。
 長い廊下を駆け抜け、一番奥の部屋へ到着すると、高丸はノックもせずにありったけの力を込めてドアを蹴破った。
 派手な音を立ててドアが床に倒れる。
「茜っっ!」
 ドアに続いて、高丸は室内に駆け込もうとした。
 刹那――
 ゴツッッッッ!! 
 鈍い音がした。
 いつもの如く自分の長身をうっかり忘れてしまい、思い切り壁に頭を打ちつけてしまったのだ。
「いっっっってぇっっっっ!!」
「バッ、バカ、高丸! 大丈夫かっ?」
 よろめいた高丸を辛うじて紀ノ國屋が後ろから支える。
 高丸が額を手で押さえながら何とか立ち上がった、その時、
「高丸!」
「……随分と間抜けな騎士(ナイト)ですわね」
 聞き慣れた友人の声と高慢さを感じさせる少女の声が、同時に耳に届いた。


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