ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 湿気を孕んだ黴臭い空気が充満している。
 滅多に使用されることのない地下道は、独特な匂いに満たされ、薄気味悪い雰囲気を醸し出していた。
 壁に設えられた無数の蝋燭は、地下の主が久方振りに目醒めたことを喜ぶように妖しく揺らめいている。
 莉緒は、先を行く玲の背中を眺めた。
 素肌の背中には、何の気負いも畏怖も具現されてはいない。鬱積していた怒りを倫太郎にぶつけたことで、幾分心が楽になったのだろう。
 ――大丈夫。神栖くんは冷静だ。
 そう安堵した矢先に、玲が突如として足を止めた。
 肩が震え、背に緊張が走る。
「血の匂いがする」
 硬い呟きを放った直後、玲は疾風の如く階段を駆け出し、莉緒の視界から消えた。
「ちょっと待ってよ!」
 莉緒は状況が把握できずに、慌てて玲の後を追った。
 抱えた武器の重さに耐えながら、細長い階段を必死に駆け降りる。
 程なくして、石畳の敷き詰められた小さなホールに出た。
 石壁を刳り貫いたような穴から光が洩れており、そこからアーサーの住居と思われる室内が窺える。
 玲は、その部屋の中で立ち尽くしていた。
「かな……め……」
 玲の肩から灯油のポリタンクが転げ落ち、床に衝突して鈍い音を立てる。
 莉緒は玲のただならぬ様子に驚き、室内に駆け込んだ。
 そして発見した――須玖里要の無惨な姿を。
 要は、部屋に並ぶ書架に背を預けた形で佇み、放心したように宙を眺めていた。漆黒の双眸は虚ろで、何も映し出してはいない。
 ――あれは……瑞穂と同じ目。
 死にゆく者の虚無な双眸だ。
 そうと気づいた瞬間、莉緒は全身を激しく震わせていた。
 恐怖が忍び寄ってくる。
 要の首筋には、長い金髪を垂らしたアーサーが噛みついている。
 彼が要から血を――生気を奪っているのだ。
「止めろっ! 要を離せ!」
 目の前で繰り広げられている悪夢に耐えられないように、玲が鋭い叫びをあげる。
 それに応えるように、アーサーは要の頸部から唇を離し、こちらを顧みた。
「少しばかり来るのが遅かったようだね」
 アーサーが玲を見つめ、唇を吊り上げる。
 二本の牙を剥き出しにした残忍な笑顔で、彼は息子を迎えた。



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2009.08.26 / Top↑
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