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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.08.27[08:42]
     *


「茜っ!」
 高丸は親友の呼びかけに応じ、入口を潜った。
 今度は、細心の注意を払って身を屈める。
「あ……悪趣味な部屋……」
 背後で紀ノ國屋の呆けた声が聞こえる。
 その意見には高丸も賛成だった。部屋の至る所に茜の写真が所狭しと貼られているのだ。
「高丸!」
 喜びを孕んだ茜の声が、再び高丸の耳に浸透する。
 高丸は茜に視線を馳せ、眉根を寄せた。
 美貌の親友は、身動きできないようにベッドにがんじからめに縛り付けられている。しかも制服の上着が乱れ、白い肌が垣間見えていた。
 不埒なことをされたに違いない。
「あ、茜っ! おまえ、まさか、もう馨センセの妹にヤられちゃったんじゃ――」
「黙っててろ、紀ノ國屋!」
 下品な言葉を口走る紀ノ國屋の脳天に拳骨をお見舞いし、高丸は険しい眼差しを黒井百合子へと据えた。
「茜は返してもらう」
 高丸は怒りを孕んだ声音で断言した。
 いくら馨の妹でも、赦せないものは赦せない。
「嫌ですわ。茜様は誰にも渡しませんわ!」
 百合子は高丸の巨躯に威圧感を感じないらしく、気丈にもキッと睨みつけてきた。
「悪いけど、オレもアンタに茜は渡さない」
 高丸はツカツカと百合子に歩み寄り、彼女を押し退けようとした。
「ハハハハハッ! 百合子、君の負けだ!」
 百合子の肩を手で掴んだ瞬間、脳天をつんざくような高笑いが響いた。
「僕に喧嘩を売るなんて、百万年早いことを認めたまえ、百合子!」
「お、お兄様っ!?」
 百合子が顔を青ざめさせ、狼狽したように後ずさる。
 高丸が後ろを顧みると、いつの間にか仁王立ちした黒井馨の姿が室内に出現していた。
 間をあけずに、バタバタバタと廊下を慌ただしく走る音が聞こえてくる。
「祇園寺! 榊! 無事か?」
 長いポニーテールを揺らして、直杉が飛び込んでくる。
「あっ! わ~い、茜くんだ~!」
 続いて姿を現した志緒は、茜の姿を確認して嬉しそうに微笑んだ。分身を解いたらしく、今は一人の志緒しかいない。
「お兄様……何故、わたくしの邪魔を!?」
 百合子の非難の言葉に、馨が柳眉を跳ね上げる。
「僕の部屋から写真を盗むこと自体、間違っているのだよ、百合子」
「最初はそんな気などありませんでしたわ! でも、茜様を一目見て、わたくしは恋に堕ちてしまいましたの。この美しい方こそ、わたくしの運命の恋人だと確信しましたのよ」
「だからって、誘拐していいものじゃないだろ。反省したまえ! ――祇園寺君、さあ、早く榊君を救出したまえ!」
「言われなくても、助けるよ」
 高丸は茜が縛り付けられているベッドへと素早く移動した。
「大丈夫か、茜?」
 気遣わしげに茜の顔を覗き込んでから、高丸は彼を戒めているロープを丁寧に解いた。
「悪いな」
 自由になった四肢を確かめるように動かしながら、茜が消沈した声音で謝罪する。
「なに言ってんだよ」
 高丸は改めて茜を見下ろし、微笑んだ。それを受けて、茜が静かに微笑み返す。
「ちょっと、お待ちなさい! 二人で意味深に見つめ合わないでほしいですわっ!」
「うわっ!」
 突然、背後から衝撃を受けて高丸ば不様にベッドにつんのめった。百合子が不機嫌も露に両手で思い切り高丸を突き飛ばしたのだ。
「茜様はわたくしの物ですわ! 気安く触らないで下さいませ!」
「……俺は誰の物でもない」
 茜が減なりした表情で百合子を見据える。
「茜様は、わたくしの未来の夫ですわっ!」
「だから、そんな気は更々ないって……。俺、みんなと帰るよ」
「嫌ですわっ! わたくしはずっと茜様と一緒にいるのよ! 茜様は一生わたくしの傍いなきゃいけないのですわっ!」
 百合子の顔が絶叫と共に醜く歪む。
「わたくしは――」
 百合子の全身から鬼気が放出され始めているのを、高丸は瞬時に察した。
 電流のようなものがバチバチと百合子の周囲で火花を散らす。
 高丸は驚愕に目を瞠った。
 それは、特別な力――神秘の力の覚醒。
 渦巻く鬼気。
 強力な想い。
 迸る輝き。
 身体の奥底から漲る未曾有のエネルギー。
《サイコプラズマ》
 百合子の裡に秘められていた、もう一つの精神が深き眠りから醒めようとしている。
「わたくしは、茜様が好きなのっっ!!」
 百合子の心が咆哮を発する。
 直後、赤光が室内を埋め尽くした――



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