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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.08.27[20:33]
ENDING



「祇園寺センパイ、おはようございまーす!」
「おう、おはよう!」
 朝練帰りの廊下で、祇園寺高丸は元気よく挨拶してくる下級生に片手を挙げて応じた。
 その後に、吐息が零れる。
 ひどく憂鬱な気分だ。
 どんな顔をして茜に逢えばいいのか――答えを見出せない。
 拉致事件の際、茜にキスされたのは覚えている。衝撃のあまり不覚にも意識を失ってしまったのだ。
 気がつくと、自宅のベッドで眠っていた。
 目が醒めた時、『あれは夢だったんだ』と思ったが、どうにもそうではないらしい。
 茜の唇の感触がしっかりと残留している。
 百合子の魔手から逃れるための手段だとしても冗談が過ぎる。
 バレーボール一筋――純情な高丸には些か過激な口づけだった。
 無意識に指が唇を押さえる。
「うわっ! やっらしー、高丸! この、エロガッパ! 茜の悩殺キッスが忘れられないんだろっ!」
 不意に自分の真横で声がしたので、高丸は狼狽した。慌てて首をねじ曲げる。
 紀ノ國屋が派手な金髪を揺らし、踊りながら愉快そうに自分を見上げていた。
「デカイ声で喋るな、紀ノ國屋っ!」
 高丸は鋭利な眼差しで紀ノ國屋を睥睨した。
 他の生徒に『茜とキス事件』を知られるわけにはいかない。学校というところは驚くほど速く噂が広まるのだ。
「ケケケッ! 茜とキスできたなんて幸せモンだね、このぉ!」
「うるさいぞ、紀ノ國屋っ!」
「朝から、おっかねー奴!」
 ケラケラと笑い、紀ノ國屋は逃げるように生徒の群れの中に姿を消した。しっかりとダンスを踊りながらの奇怪な逃走だった。
「祇園寺、朝練は終わったのか?」
 紀ノ國屋の逃げた方角をボーッと眺めていると、今度は背後から声をかけられた。
 顧みると、袴姿の徳川直杉が立っていた。彼女も朝練だったのだろう。
「昨日は酷い一日だったな。ところで――」
 直杉が神妙な顔で声をひそめる。彼女は背伸びをして高丸の耳元に唇を寄せた。
「おまえと榊が恋仲だなんて知らなかったぞ。是非、二人の馴初めを聞きたいものだな」
「――はぁ!?」
 高丸は心臓をドキッと高鳴らせ、目をしばたたかせた。
 ――み、みんな、誤解している!? あれは百合子から逃れるための手段だったのにっ!
 訂正しようと口を開きかけた時、
「直杉センパーイ!」
 人込みの中から直杉を呼ぶ声が飛んできた。
「後輩が呼んでいる。悪いが失礼するぞ」
「あっ、オイ! 徳川っ――」
 軽く高丸の肩を叩き、直杉は踵を返して人波に消えてしまう。高丸が事実を告げる間もないほど、迅速な行動だった。
「……ったく、どいつもこいつもっ!」
 不愉快さに眉間に皺を寄せ、廊下を進む。
 直後、更に追い打ちをかけるような場面に遭遇してしまった。
 前方で黒井馨と松本志緒が楽しそうに談笑していたのだ。
 二人は高丸に気付いたらしく、ブンブンと手を振っている。
「おっはよう、高丸く~ん!」
「祇園寺君、ご機嫌はいかがかな?」
「……おはようございます」
 高丸は消沈した声音で挨拶を返した。
「おや、元気がないではないか!」
「どうしたの、高丸くん? 昨日、茜くんと熱いベーゼを交わしてたのに~!」
「そうそう。いいもの見させてもらったよ。二人のキスシーンは、僕の美意識を益々向上させてくれた。記念に祇園寺君にはただで写真をあげよう!」
「えっ、写真っ!?」
 上擦った声が唇から洩れる。《写真》の内容が容易に想像できて愕然とした。
「そうなのさ。ジャ~ン! 見たまえ、僕の最高傑作だっ!」
 馨はスーツの胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
 それは、紛れもなく茜と高丸のキスシーンであった。
 いつの間に撮ったのか解らないが、尋常ではない馨なら苦もなくやりそうなことだ。
 高丸は羞恥に顔を朱に染め、勢いよく馨の手から写真をもぎ取った。こんなものを学園内に流出されては困る。
「馨センセッ! ネガも没収っ!」
 高丸は目を血走らせながら叫んだ。
 転瞬、馨が意味深にニヤッと笑う。
「十万」
 サッと馨の手が差し出される。
 高丸は眩暈を感じた。どうあっても、この変人教師は商売をする気らしい。家が金持ちだから、そんなことをする必要は全くないのに、だ。
「僕の美のための寄付だと思えば、安いものじゃないか。まっ、考えといてくれたまえ! ――とりあえず、諸君、HRの時間が迫っている。そろそろ教室に入りたまえ」
「ハーイ! 行くわよ、高丸く~ん!」
 志緒が元気よく挙手し、高丸の腕を引っ張る。
 志緒に従順に従いながら、高丸は重い溜息を落とした。
 ――災難続きの朝だ……。



 志緒と別れ、高丸はE組の教室までやってきた。
 ドアを開けて中へ入ろうとした瞬間、
「おはよう、高丸」
 バッタリ茜に逢ってしまい、高丸は驚倒した。
 ガツンッッッ!!
 大きな衝撃音が周囲に響き渡る。
 またしても壁に頭をぶつけてしまったのだ。
「いってーっっ!!」
「……大丈夫か?」
 あまりの痛さにしゃがみ込んだ高丸を、茜が唖然と見下ろしている。
 茜に注目されている――それを考えるだけで、高丸の胸に気まずさと気恥しさが芽生えた。
「だっ、大丈夫だ……。おはよう、茜」
 高丸は額を押さえながら立ち上がると、何気なさを装って教室の中へ足を踏み入れた。
 茜と二人、教室に入った直後――
「高丸くん! 茜くんとキスしたんだって?」
「感想聞かせてよっ!」
「どっちが誘ったの?」
 クラスの女子がドッと波のように押し寄せてきたのである。
「えっ! あっ……ええっ!?」
 ――何で知ってんだよっ!?
 素朴な疑問に目を点にさせたところへ、クラスの誰かが気の毒そうに高丸の背中をポンポンと叩いた。
「さっき、紀ノ國屋が大声で言い触らしてたぞ」
「なっ、なにぃぃっっ! あのっ、バカ男っ!」
 怒りのままに隣のクラスに殴り込みに行こうとした高丸の前に、女子たちが群がる。
「ねえ、どーやってしたの?」
「どんな感じ?」
「キスより先のこともしちゃったっ?」
 高丸は恐ろしいものを見る目つきで、騒ぎ立てる女子を眺めた。
 だが、たじろぐ高丸と対照的に茜は至極冷静だった。色めき立つ女子を無視して、颯爽と席に着いてしまうのだ。
 時を同じくして、担任が入室してくる。
 高丸はハッと現実に立ち返り、慌てて茜の隣――自分の席に腰を下ろした。
 直ぐ様、HRが開始される。
「えー、突然だが――今日は転入生を紹介する」
 咳払いの後、徐に担任は告げた。
 ――嫌な予感がする。
 高丸は背筋に悪寒を感じて、思わず身を震わせた。
 大抵の場合において、高丸の第六感は的中する。
 高丸は緊張の眼差しで静かに開かれる扉を見つめた。
「今日からみんなのクラスメイトになる、黒井君だ」
 担任の声が多大な衝撃と共に耳を通過する。
「――は?」
「えっ?」
 驚愕に顔を上げる。
 隣で茜が息を呑んだ。
 眩い純白のセーラー服。
 靡く漆黒の髪。
 美しい少女が、軽やかに教壇へと歩を進めた。
「黒井百合子と申します。皆様、これからよろしくお付き合い下さいませ」
 教壇の上で、少女は艶やかに微笑んだ。
 その魅惑的な微笑みは、茜ただ一人に注がれている。
 高丸と茜は顔を見合わせて、絶句した。
 前途超多多多多難――


                          《了》



こ、こんな結末でスミマセンッ(汗)
お馬鹿で間抜けな話に最後までお付き合い下さり、ありがとうございました(*^▽^*)

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