ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 アヴィリオンが具体的にどんな研究を行っていたのか、ラグネルは知らない。
 だが、一ヶ月前にアヴィリオンが八年間の研究活動に幕を閉じたのは知っている。
 リーダー的存在であった博士――ミユキ・クルミザワ氏が不慮の火災で生命を落としたのだ。
 遺伝子学と生命工学の天才を欠いたアヴィリオンは、その直後に突如として閉鎖された。
「ドクター・ミユキの死後、あそこは完全に閉鎖されたはずだ」
 ランスロットが苦々しげに呟く。
「そのアヴィリオンの元博士が、どうして殺されるわけ?」
 ラグネルは意識をモニターへと集中させた。
 画面には死亡したエーリッヒ博士の顔写真が映し出され、その隣に殺害現場付近の簡素な地図が表示されている。
「やだ。西エリアだけど、ここから近いじゃない」
 ラグネルは軽く眉根を寄せた。エーリッヒが殺されたのは、ラグネルたちが住んでいる南エリアに近い場所だったのだ。
 ――もしかして、あの子、この事件に巻き込まれたのかしら?
 ふと、脳裏に血塗れの少年が浮かんだ。
 天使のような顔をした少年。
 彼の肩を抉っていた怪我を思い出し、急に不安を覚えた。
 あれは鋭利な刃物で裂かれた傷口だった。肩に自らナイフを突き立てる人間など皆無だろう。少年は何者かに刺された――襲われたのだ。
 少年の怪我が報道される陰惨な事件と無関係であればいい、とラグネルは密かに祈った。
『ウサミ議長っ!!』
 不意にニュース画面が切り替わる。
 映し出されたのは議長官邸だった。その門から出てきた一台の高級車に、多数の報道陣が群がっている。
 フラッシュの集中砲火を浴びているのは車中の男――アキラ・ウサミ氏だ。
『ドクター・エーリッヒ殺害事件は、アヴィリオンの閉鎖と何か関係あるのですか?』
『ミユキ・クルミザワ博士も他殺だった、という噂は真実ですかっ!?』
『真相はどうなんです、議長!』
『議長、議長、議長――』
 報道陣の容赦ない質問がウサミ議長に投げられる。だが、車中の人物は微動だにしなかった。
 やがて、議長を乗せた車は報道陣を押し退けるように発進し、瞬く間に遠ざかった。
「エーリッヒが死んだのに、ノーコメントか」
 ランスロットが嘲るような呟きを発する。
 ラグネルは彼の発言を不思議に思い、その顔をまじまじと見つめた。
「博士と知り合いだったの?」
「エーリッヒは……古い友人だった」
 ランスロットの双眸が僅かに細められる。表情には、友人の死を悼む哀しみと自嘲の笑みが相俟っていた。
 複雑な表情に見てはならないものを目撃してしまったような気がして、ラグネルはランスロットから視線を逸らした。
「わたし、コーヒー淹れてくるね」
 勢いよく立ち上がり、リビングに隣接しているキッチンへと足を運ぶ。
 途中、一度だけランスロットを振り返った。
 彼は相変わらず深刻な表情でモニターに見入っている。
 今までラグネルには見せたことのないほど厳格で冷徹な顔をしていた。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.08.29 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。