ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 壁に飾られた巨大な写真を、ガウェインはじっと見つめていた。
 霊長類研究機関――アヴィリオンの正面ゲートで撮られた写真だ。
 写真には、七人の男女の姿が焼きつけられている。
 中央に、アヴィリオンの出資者であるアキラ・ウサミと彼の長男であるフレイ・ウサミ。
 彼らの左右には、五人の博士たちが散らばっていた。
 ここは、五人の博士たちの聖域だったアヴィリオン。
 そして、ガウェインの家でもあるアヴィリオンだ。
 ガウェインが今いるのは、地下二十階にある一室――かつては、ミユキ・クルミザワ博士の私室であった部屋だ。
 ウサミ議長からアヴィリオン閉鎖の旨が通達された後も、ガウェインはここに留まっていた。
 再び外の世界に放り出されることが怖くて。
 ここを飛び出す勇気がなくて……。
「あんたたちは勝手だよな。好きなだけオレたちを研究し、開発して――用済みになったら簡単に捨てた。今更、普通の人間に紛れて生活しろとでも言うのかよ? オレたちは、あんたたちに育てられた怪物なのに……」
 独り言ち、鋭い視線で写真を睨めつける。
 左から順に博士たちを目で追った。
 左端に立つ若い男が、昨夜死亡したエーリッヒ・ガノヴァ。生物学者。
 エーリッヒの隣に佇む端麗な顔立ちの青年が、アシュレイ・クライメント。電子工学と数学の第一人者。
 そのアシュレイに肩を抱かれている少女が、エレイン・フォーチュン。僅か九歳でブロスリアンド中央大学を卒業し、博士号を取得したコンピュータの寵児。
 ウサミ親子を飛ばして、次がミユキ・クルミザワ。生命工学と遺伝子工学の研究者。
 右端に立つ眼鏡をかけた男が、ランスロット・マロリー。薬学に長けた医学博士。
 霊長類研究機関としての表向きのアヴィリオンではなく、地下に存在する真のアヴィリオンの主要博士がこの五人だった。
「どうして、オレたちを捨てた? なあ、教えてくれよ、ランスロット」
 ガウェインは、写真の中のランスロットを拳で殴った。
 己の異様に白い肌を持つ腕が、否応なしに視界に飛び込んでくる。色素のない銀色の頭髪は視野に入らぬよう常に短く切っているが、肌だけはどうしても目についてしまう。
『ガヴィ、俺のアルビノ。俺の――最高傑作!』
 不意に、脳裏でランスロットの声が甦る。
 同時に昨夜出会した少女のストレートな言葉をも思い出して、ガウェインは苛立ちと怒りを覚えた。
「好きでアルビノに生まれたわけじゃない」
 舌打ちを鳴らし、眦を吊り上げる。
 ガウェインの身体は、生まれた時からメラニンや葉緑体などの色素を欠いていた。
 それは、ガウェインのせいでも両親のせいでもない。
 だが、褐色の肌を持つ両親は、生まれてきたアルビノを見て仰天し、嘆き悲しんだ。そして、人々から奇異の眼差しを向けられることに耐えかねて、ついには我が子をブロスリアンドに捨てたのだ。
 当時、ガウェインは十歳かそこらの子供だった――
「思い出すな」
 過去を顧みそうになっている自分に気づき、ガウェインは慌てて自戒した。
 忌々しい記憶をわざわざ掘り起こす必要はない。
「そうそう、思い出に耽ったって、過去は変わりはしないわよ」
 突然、背後から抱き締められる。
 ガウェインが驚いて振り返ると、大きな鳶色の双眸を輝かせた派手な女性の顔が間近にあった。
「まっ、思い出して悩みたいなら、好きなだけ悩めばいいけどね」
 長い巻き毛を誇らしげに揺らし、女は素早くガウェインの頬にキスをする。
「気持ち悪いことするなよ、モリガン」
 ガウェインが不機嫌に女を振り払うと、彼女は笑いながら飛び退いた。
 彼女――モリガンの身体は、床から一メートルほど離れた宙に浮いている。
 スポーツブラにホットパンツという出で立ちのモリガンを見て、ガウェインは溜息をついた。
 モリガンは羞恥心や慎み深さとは無縁の女性なのだ。自分が見事な肢体の持ち主であることを熟知していて、いつも露出度の高い格好をしている。
「悩むのは青少年の特権よ。あたしは悩むことなんて、とっくに放棄しちゃったけどね」
「――で、何しにきたんだよ」
 ガウェインは、モリガンの左の腕を見つめながら訊ねた。
 彼女の二の腕には《Y8》という文字が刻印されている。ガウェインの左腕にも彼女と同様のナンバリングがあるのだ。
「アラ、決まってるじゃない。可愛い可愛いリガの様子を見にきたのよ」
 床に着地したモリガンの視線が、室内の隅にあるベッドへと馳せられる。ガウェインも釣られるようにそちらへ視線を転じた。
 ベッドには金髪の少年が横たわっている。
 血の気を失った秀麗な顔は、細かな汗の粒に覆われていた。
「つっ……。ああっ……ああああああっ!」
 突如として、少年の唇から悲鳴が迸った。



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2009.08.30 / Top↑
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