ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「説明しろ、ラザァ!」
 シンシリアに鋭い口調で問われ、ラザァは渋面で肩を聳やかした。セリエが勝手についてきたのだから、咎められる所以はない。
「姫君はサーデンライト公の弟君に惚れたらしい」
「クラリスにっ!?」
 ラザァの返答を聞いた瞬間、シンシリアが不服げに片眉を跳ね上げる。
「こいつはとんでもない二重人格者だぞ。ウチの姫には、コレよりもっと相応しい男がいるだろう」
「ちょっと! わたしの趣味にケチつける気なの、シンシリアッ!!」
「あ、あの、私の弟なのですけど――」
 すかさずセリエが眦をつり上げて抗議し、マイトレイヤーが困ったように微笑を湛える。
 主と恋人の両方から非難されて、シンシリアはそれ以上クラリスに対する文句を放つのを断念した。何より、クラリスが無言で睨んでいるのが怖い。
「……待ち合わせの時間より、随分と遅かったね、シンシリア。兄上とお愉しみでしたか?」
 案の上、クラリスは剣呑な声音で痛いところを突いてきた。
 しかし、それくらいのことで怯むシンシリアではない。彼は、逆にそれをネタにしてクラリスを虐めることに決めた。
「まあ、そんなところだな。久し振りの再会だから、中々離しがたくてな。――そっちはどうだった? 陛下と愉しめたか?」
「愉しめるわけないだろっ!」
 シンシリアに好奇の眼差しを向けられて、クラリスはムッと言い返した。嫌な役回りを他人に押しつけておいて、それを揶揄するなんて信じられない。
「おや、ムキになるところが怪しいな。もしかして、うっかり最後までヤッちゃったとか?」
 シンシリアのからかいを孕んだ声が耳をくすぐる。
 意地悪な微笑みを浮かべているシンシリアに対して、クラリスは本気で怒り始めていた。どうにも、自分の反応の一つ一つがシンシリアの嗜虐心を煽り、彼を喜ばせているようだ……。それも気に入らない。
「――で、どうだった? 感じたのか?」
 シンシリアの笑みに凄味が増す。
 不愉快さに眉を跳ね上げたクラリスが怒声を放つよりも早く、
「シン! 私の弟をそれ以上虐めないで下さい」
「ちょっと! わたしの未来の夫に手を出さないでよっ!」
 再びマイトレイヤーとセリエが揃ってシンシリアを責めた。
 シンシリアが軽く肩を竦め、大人しく口を噤む。彼にとっては、二人とも逆らうことの出来ぬ人物なのである。
 クラリスはシンシリアに棘のある一瞥を送ると、険しい表情でセリエを振り返った。
「どさくさに紛れて、変なこと言うなよっ! 誰が夫だ! 誰がっっ!?」
「アラ、あなたしかいないじゃない。ねえ、クラリス――わたし、新婚旅行はお隣のカルラ大陸一周がいいわ!」
「結婚する気なんかないってば! 僕は、兄上みたく清楚で大人な美人が好きなの! 悪いけど、お姫様みたいなお転婆はキ・ラ・イッ!」
 クラリスが鼻息も荒く憤慨すると、セリエは負けじと言い返してきた。
「クラリスって、物凄くブラコンなのね!」
「ブラコンじゃなくて――近親相姦! 僕は兄上を愛してるの!」
「アーラ、じゃあ、フラれたんじゃない。サーデンライト公はシンシリアとくっついちゃったんだもん。この際だから、わたしで手を打たない?」
 セリエが王女らしからぬ言葉を連ね、ニッコリと微笑む。
 クラリスは口許を戦慄かせて彼女を見返した。
「それが、伝統と格式を重んじるアルディス聖王家の王女が言う言葉かっ!?」
「クラリスだって、兄様と話す時はもっと丁寧なのに、わたしに対しては横柄で冷たくて乱暴で意地悪じゃない! 何か文句ある!?」
 セリエがキッとクラリスを睨み返してくる。蒼い双眸は苛烈な輝きを灯している。少女といえども聖王家としての威厳が備わっているので、その強い眼差しには流石のクラリスも少々たじろいでしまった。
「――ねえ、シン……あの二人、結構いい組み合わせかも……」
「まあ、何というか――似た者同士ではあるな」
「右に同じく」
 二人の様子を見ていたマイトレイヤー、シンシリア、ラザァの三人が、唖然と呟く。
 アルディス聖王家の直系と大貴族の子息ともあろう者が、立場そっちのけで感情を剥き出しにし、啀み合っているのだ。
 シンシリアはクラリスの二重人格もセリエのお転婆も熟知しているので驚きの度合いは少ないが、一方しか知らないマイトレイヤーとラザァは心底面食らっていた……。
「僕は興味のない相手に対しては冷たいんだよ! 女だと特にねっ!」
「何ですって――――!?」
 未だ罵り合いを続けているクラリスたちであったが、不意にセリエが怒鳴るのを止めて虚空を見上げた。
「――ラザァ! 傍に来てっ!」
 宙を睨めつけたまま、セリエがラザァを呼ぶ。
 ラザァは素早い動きでセリエの元へ移動した。緋色のマントを鮮やかに翻し、それでスッポリと王女を覆ってしまう。
「どうしたの、アレ?」
 クラリスはセリエの行動を訝しみ、シンシリアへと疑問を投げた。
「姫は、王宮では《即席危険探知機》と呼ばれている。要するに、霊とか精霊の類を視ることに長けているんだ。霊と精霊の両方を視られる奴は、魔法剣士の中にもいない。まっ、それだけ貴重な人物ってことだ」
 クラリスの質問に応じながらも、シンシリアの双眸は真摯にラザァとセリエの様子を窺っている。
「シン……風の精霊が騒ぎ始めました。何か来るようです」
 シンシリアの隣でマイトレイヤーが不安げな呟きを洩らした。彼にも精霊が視えているのだ。
「大変!」
 セリエがヒョイとラザァのマントから顔を覗かせる。
 再度、夜の闇を見上げた彼女の口から逼迫した叫びが放たれた。
「デメオラ祭祀長とマイセの神官たちだわっ!!」



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2009.08.31 / Top↑
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