ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ランスロットを睨みつけたまま、ガウェインは一気に《力》を解放した。
 両の掌からは炎が噴き出している。
 それは凄まじい勢いでランスロットに襲いかかった。
 瞬く間に彼の全身が炎に呑み込まれる。
「そうだ。それでいい……」
 炎の中でランスロットが満足げに微笑む。
 炎を発しているガウェイン自身は熱さを感じないが、ランスロットはかなりの高熱に苛まれているはずだ。
 なのに、彼は笑う。
 ガウェインの選択を褒めるように微笑む。
「何が……人を裁く力だ。人を殺す力じゃないかっ!」
 ランスロットの微笑みに苛立ちを感じ、ガウェインは絶叫した。
 発火。
 この特殊な能力こそ、ランスロットに開発された恐るべき武器だ。
 ガウェインの裡には、生まれながらにして不可思議な力が宿っていた。幼い頃から小さな物体なら燃やせたし、人並み外れた身体能力をも持ち合わせていた。
 ガウェイン自身は、特異な力の代償が『アルビノとして生まれたこと』だとは思っていない。
 だが、両親は違った。
 両親は息子の容姿と特殊な能力を畏怖した。血の繋がった我が子を悪魔と罵った。この子は人ではないから、こんな容姿に生まれたのだ、と……。
 我が子に対する恐怖を拭えずに、両親はブロスリアンドの東エリアに存在するスラム――暗黒街にガウェインを捨てたのだ。
 捨てられたガウェインは暗黒街で何とか数年を生き延び、ランスロットと出逢うことになる。彼は、自分の容姿と能力を理解してくれた初めての人間だった。
 その後、ガウェインは彼に誘われてアヴィリオンの住人となった。
 そこで博士たちによる様々な研究が行われ、ガウェインの潜在能力は全て引き出されたのだ。
 今では、百メートルほどの距離なら軽く跳躍できる。五感も常人より遙かに優れ、人間というよりは野生動物のそれに近い。
 発火能力の開発は、更に目覚ましいものがあった。
 念じるだけでどんな物体でも燃やせるし、対象物だけを燃やすという離れ業もできるようになってしまった。
 全ては、博士たちの熱心な研究の賜物だ。
 自分を拾ってくれたランスロットや博士たちには感謝している。
 だからこそ、彼らに捨てられた時の衝撃は甚大なものだった。
 見捨てられたのだと悟った時、自分が本物の悪魔に――怪物に成り果ててしまったような気分に陥った。
 化け物になってしまったから、博士たちは自分を捨てたのだ。
 要らなくなったから捨てたのだ。
 両親と同じように。
 彼らから注がれたと思っていた愛情は全て錯覚。
 彼らが自分を大切にしてくれたのは、自分が興味深い研究対象だったからに過ぎない。全ての能力を開発し尽くしてしまった自分になど、博士たちは何の興味も愛着も抱きはしない。
 要らないから捨てられた。
 今も昔も――自分は要らない人間なのだ。
「オレたちは殺人兵器として開発された」
「違う。誤解だ、ガヴィ。俺はおまえたちを愛している。俺はただ……生きることに絶望していたおまえを救ってあげたかっただけだ」
 苦痛に顔を歪ませながらランスロットが囁く。
「嘘だ。欺瞞だ。あんたは大嘘つきだ!」
 不意に、視界が不鮮明になる。
 義眼を保護する液体が、また双眸から溢れ出したのだ。
 だが、ガウェインは絶対にそれを涙だとは認めたくなかった。認めることは、ランスロットや博士たちへの愛情を失っていないことを意味してしまう。
「こんな力、要らない。オレは……こんな力なんて欲しくなかった。オレは、あんたの傍にいたかっただけだ。だから、アヴィリオンにも行った。実験にも耐えた。……あんたの傍にいたかった。けれど、あんたはいとも容易くオレを捨てた。ひどい裏切りだ」
 暗黒街に捨てられたガウェインは、生きてゆくために何でもした。窃盗、麻薬売買、売春――できることなら何でもした。
 暗黒街で生き延びた歳月に比例して次第に心は荒み、病んでいった。
 もうどうなっても構わない――そう思い始めた時、ランスロットが忽然と現れたのだ。
 彼は躊躇うことなく自分に救いの手を差し伸べてくれた。
 ランスロットが汚泥の中から自分を引き上げてくれると信じ、ガウェインはその手を必死に掴んだのだ。
 しかし、ランスロットはアヴィリオンから逃げ出すという方法で、ガウェインの手を容赦なく振り払った。
 掴んだ手を離された時に感じたのは、深い絶望だった。
「あんたに与えられた、こんな力なんて要らない!」
 要らないと言いながら、自分は今、その力でランスロットを殺そうとしている。
 矛盾だ。
 大きな矛盾だ。
 だが、そうと解っていても彼を許すことはできなかった。
「許してもらえるとも、信じてもらえるとも思わない。だが、俺は――」
 ランスロットが炎まみれの手を懸命に伸ばしてくる。その皮膚は焼け爛れ、所々骨が剥き出しになっていた。
「今でも、おまえを――」
「黙れっ!」
 ランスロットの言葉の続きを聞きたくなくて、ガウェインは宙を彷徨う彼の手を荒々しく叩き払った。
 乱暴に彼の胸元を片手で突く。
 炎に包まれたランスロットが苦悶の呻きをあげながら、よろよろと後ずさった。
「あんたの言葉なんて、もう信じない」
 ガウェインは険しい眼差しで炎の塊と化したランスロットを睨めつけた。
 ランスロットを死へと誘う炎が一際大きく膨れ上がる。
 華々しく火の粉が舞う。
 その時、背後でドアを開閉する物音が響いた。


     *



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2009.09.04 / Top↑
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