ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「う……そ……。嘘でしょ?」
 ラグネルは思わず青年に見入ってしまった。
 彼に見覚えがあったのだ。
「マジシャン・ガラハッド!?」
 素っ頓狂な声が口から洩れる。
「世間一般的には、そう呼ばれてるな。本名はトリスタンだ」
「ほ、本当にマジシャン・ガラハッドなのっ!?」
「イエス」
 ガラハッドが意味深に笑う。
 彼は唐突に片手をラグネルに向けて差し出した。
 掌には何もない。
 だが、彼が手を翻すと、不思議なことに掌に一本の煙草が出現した。
 慣れた手つきで煙草を口へと運び、パチンと指を鳴らす。すると今度は煙草の先端に火が点いた。
「本物なのね……。わたし、初めて観ちゃった」
 最大限に目を見開き、ラグネルは紫煙を燻らせる青年を凝視した。
 マジシャン・ガラハッド――稀代の奇術師。
 世界各国に名を馳せる有名人が、自分の目の前にいるなんてすぐには信じられなかった。
 昨夜、街頭広告で見かけた姿と同一の人物がすぐ傍に立っている。何とも奇妙な気分だ。
「どうして、あなたがここにいるの?」
 ラグネルは当然の疑問を口にした。凄腕の魔術師とアヴィリオンの関係がうまく把握できない。
「ここは、俺の家だ。――で、今は、モリガンに頼まれて迷子になった君を迎えにきたというわけだ」
 ガラハッドは淡然と告げる。
「でも、ここには誰もいなかったはずよ。なのに、あなたはわたしの目に触れずに部屋に侵入している。納得できないわ」
 ラグネルが不審の眼差しを向けると、ガラハッドは肩を竦めて笑った。
「マジシャン・ガラハッドに不可能はないんだよ。どんな堅固な扉も、分厚い壁も、俺には無意味だ。俺が望めば、俺は何処へだって瞬時に移動することができる。空間を自由自在に操ることが、俺には可能なんだよ」
「……あなたも特殊な能力を持ってるのね」
「ここの住人は誰もがそうだ。ちなみにガウェインをランスロットの部屋に跳ばしたのは、この俺だ」
「ランスロット殺しに関わってるの?」
 ラグネルは鋭くガラハッドを睨んだ。
 ランスロットの殺害に、間接的だがガラハッドは関わっている。先刻まで忘れかけていた怒りと憎しみが、再び迫り上がってきた。
「俺を恨むなら、ご自由に。ガウェインばかり憎まれるのは割に合わないからな」
「あなたもガウェインの味方なのね」
 ラグネルは唇を噛み締めた。
 ――ここには、わたしの味方なんていない。
 そう痛感した。
 自分だけがランスロットの味方であることを思い知らされて、悔しい。
 誰もランスロットの死を悼んでいないし、彼を殺害したことに罪悪感など抱いてはいない。
 ラグネルは憤怒を堪えるように、両の拳を握り締めた。ありったけの憎悪を込めた双眸でガラハッドを見上げる。だが、彼は平然とラグネルの視線を受け止めた。
「当然。俺はガウェインを可愛がってるし、博士たちを恨んでいる」
 淡々と述べ、ガラハッドは指に挟んでいた煙草を無造作に投げ捨てる。床に落ちる寸前、煙草はフッと虚空に姿を消した。
「君はガウェインに逢いたいんだろ? あいつはここにはいないし、ここには――何もない」
 ラグネルをからかうように黄金色の瞳が悪戯な輝きを宿す。
 どうやって出現させているのか、ガラハッドの指には新しい煙草が挟まれていた。
「彼は何処にいるの?」
 ラグネルは挑むような口調で問いかけた。
「ついておいで」
 ガラハッドが微笑を湛え、ラグネルを促す。
 彼の口元で二本目の煙草に火が灯るのを、ラグネルは忌々しげに見つめた。


     「Ⅳ」へ続く



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2009.09.06 / Top↑
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