ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 Ⅳ



 静寂に包まれた廊下を十分ほど歩いた。
 隣に並ぶガラハッドの唇には相変わらず煙草がくわえられている。《Z》部屋を出てから既に四本目。この短時間で、ラグネルは彼がかなりのヘビースモーカーであることを知った。
「着いたよ」
 煙草を口にくわえたまま、ガラハッドがくぐもった声を発する。
 ラグネルは彼が指差したドアを剣呑な眼差しで眺めた。ドアの向こう側にランスロットの生命を奪った張本人がいるのかと思うと、また沸々と怒りが込み上げてくる。
「ガウェイン、客だ」
 自動的に開いたドアを潜り、ガラハッドが室内に足を踏み入れる。
 ラグネルは心を落ち着かせるために深呼吸し、それから彼の後に続いた。
 真っ先に目についたのは、ガウェインの輝く銀髪だった。彼はガラハッドの声に応えることもなく、こちらに背を向けている。その視線の先にはベッドがあった。
「あの子、無事だったのね」
 ベッドで眠る人物を確認して、ラグネルは驚きに目を丸めた。
 数日前、夜の街で出逢った天使のような少年が横たわっていた。
 酷い顔色をしているが、ちゃんと生きている。
 少年の胸が微かに上下しているのを見た時、ラグネルは我知らず安堵の息を吐き出していた。路上に蹲っている姿を発見した時には『もう駄目かもしれない』と本気で思った。
 だが、少年は生きていてくれたのだ。
「おい、客が来たぞ」
 ガラハッドが繰り返す。
 しかし、ガウェインは反応を示さない。
 ガラハッドはラグネルに苦笑してみせ、新しい煙草に火を点けた。
 ラグネルはガウェインの横顔をじっと見据えた。
 憔悴の色が濃い。不眠不休に近い状態で少年に付き添っているのかもしれない。少年を見守るガウェインの眼差しは優しさと愛情に溢れていた。
 ランスロットを殺した事実を忘れているような静穏な表情に、ラグネルは怒りを感じた。苛立ちに眉根を寄せる。
「あなたでも……そんな優しい顔をするのね」
 棘を含んだラグネルの声に、ガウェインがゆっくりと顔を上げる。
 若葉色の双眸が、ようやくラグネルの存在を認識した。
「ランスロットを殺したくせに! 人を殺した悪魔でも、そんな顔ができるなんて驚きだわ」
 容赦のないラグネルの罵声に、ガウェインの顔が僅かに引きつる。
「それは言い過ぎなんじゃない、ラグネルちゃん」
 ガウェインよりも早く別の誰かが反論する。
 いつの間に入室してきたのか、ガラハッドの隣にはモリガンの姿があった。
「確かに、ガヴィはランスロットを殺したわ。でも――この子は躊躇っていた。実際にランスロットを目の前にして怯んだんでしょうね。ランスロットにもそれが解った。だからあの人は、この子に自分を殺させたのよ」
「どうして、そんなことが解るのよ?」
「あたしには解っちゃうのよ。あの人はね、ガヴィに自分を殺すように命令したのよ」
「ランスロットに頼まれたから、ガウェインは彼を殺したっていうの!? そんな頼み、拒めばよかったじゃないっ!」
「拒めないのよ。あたしたち、博士の命令には絶対服従しなければならないのよねぇ。そうあるように強制プログラムされてるのよ」
 モリガンは己を揶揄するように唇を歪めた。ガラハッドの口から煙草を奪い取り、自分の唇へと運ぶ。一口喫って、彼女は疲れたように大きく紫煙を吐き出した。
「強制プログラムって、何なのよ?」
「一種の催眠。強力な暗示だ。残念ながら、マジシャンである俺にも解除できないほど強く、心の深奥に擦り込まれている」
 ガラハッドが自嘲気味に笑い、また新たな煙草を出現させる。
「あなたたちの言葉は少しも理解できないわ。それじゃあ、まるでランスロットが自殺したみたいじゃない。そんなの、絶対に認めないわ!」
 モリガンとガラハッドに鋭い視線を浴びせ、ラグネルはガウェインに向き直った。
「どんな状況であれ、あなたがランスロットの生命を奪ったことに変わりはないのよ。あなたは、わたしの目の前でランスロットを殺した……。殺したのよ!」
 怒りに任せて咆吼を放つ。
 心の奥底から憎悪がわき出してきて、ラグネルの全身を熱く火照らせた。
 どんなに怒りをぶちまけても、恨み言を連ねても、ランスロットを奪われた憎しみと悲しみは消えない。
「あなたがランスロットを殺したのよっ!」
 呪いの文句のようにラグネルは繰り返した。
「あなたが、わたしのランスロットを――」
「黙れ」
 突如として、ガウェインがラグネルの声を遮る。
 初めて逢った時と同じ冷ややかな眼差しが、鋭利にラグネルを射た。
「ランスロットを殺したのは、紛れもなくオレだ。事実だから認める。それで充分だろ? これ以上、喚くな」
「な、何よっ! 認めればいいってものじゃないでしょう。それで全部済むと思ってるの? ランスロットは死んだのよ。あなたに殺されたの。もう二度と……わたしに笑いかけてくれることはないのよ。ランスロットを返してよ、この人殺しっ!」
 ガウェインの態度にカッとして、ラグネルは矢継ぎ早に言葉を捲し立てた。
 怒りと憎悪を孕んだ双眸でガウェインを睨めつける。
 ガウェインの凍てついた瞳が、憶する様子もなくラグネルの視線を受け止めた。
「殺した事実は認める。人殺しなのも認める。けど――それを悔やんだりはしない。あんたに謝る気もない」
 感情を伴わない声がガウェインの唇から紡がれる。
 その平然とした態度がラグネルの憤怒を誘った。
「あなた、血も涙もない本物の悪魔なのね。最低よ。あなたみたいな酷い人のために生命を失ったランスロットが可哀相だわ!」
「うるさい。さっきから『ランスロット、ランスロット』って、いい加減うんざりだ。あんたがあいつの何を知ってるっていうんだよ?」
 不意に、ガウェインが声を荒げる。ラグネルの罵倒に逆上したのだろう。彼の瞳には、ラグネルに対するあからさまな侮蔑と敵愾心が漲っていた。
「オレのことを人殺し呼ばわりするけど、あんたの大好きなランスロットがオレと同じ人殺しだってことも知らないんだろ?」
「ランスロットが……人殺し?」
 ラグネルは目を瞠り、鸚鵡返しに呟いた。
 告げられた内容が衝撃的すぎて、すぐには呑み込めない。
 予想もしていなかった言葉を突きつけられ、ラグネルは困惑した。



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2009.09.07 / Top↑
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