ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ランスロットは冷酷な殺戮者だ」
 凍りついた空気に更なる追い打ちをかけ、ガウェインが冷ややかな言葉を投げつけてくる。
 ラグネルはゴクリと唾を呑み込み、忙しなく目を泳がせた。
 激しい動揺が心を掻き乱している。
 ガウェインの言葉の真意について、脳が処理することを拒否していた。
「あの優しいランスロットが、人を殺すはずなんてないわ」
「あんたは奴がリガに何をしたのか、ホントに知らないのか?」
 ガウェインの視線がベッドで眠る少年へと流される。
 リガというのは、少年の名であるらしい。
「……知らないわ」
 ラグネルは弱々しく首を横に振った。
 天使のような少年とランスロットの接点など、少しも思い浮かばない。
「あいつはリガの両親と妹を殺した。それだけじゃない。リガの四肢をナイフで切り刻んだんだ。そのせいでリガの右半身は――サイボーグになった」
 ガウェインが辛そうに顔を歪ませる。
 ラグネルは驚愕のあまりに大きく息を呑んだ。
 返す言葉がない――見つからない。
「あいつはリガから家族を奪い、無数の可能性があった未来さえも強奪したんだ。ランスロットに出逢わなければ、リガには今と違う未来があったはずだ」
「嘘よ……嘘だわっ……!」
「オレは、リガをこんな目に遭わせたランスロットを許すことができない。アヴィリオンとオレたちを捨てた身勝手な博士たちを――許さない」
 ラグネルを真っ向から見据え、ガウェインは明言した。緑の輝きを放つ双眸には深い憎しみと憤りが宿っている。
「ランスロットが……この子にそんな酷いことをするなんて、信じられない」
 ラグネルは縋るような眼差しでガウェインを見返した。いつしか瞳からは涙が溢れ出していた。
 涙に濡れた視界の中で、無情にもガウェインが首を横に振る。
「全て真実だ」
 一縷の希望を粉々に打ち砕く、重みのある一言。
 強い衝撃を感じ、ラグネルは再び言葉を失った。
「ガヴィ……」
 ふと、弱々しい声が耳を掠める。
 ベッドの中でリガがうっすらと目を開けていた。
 ガウェインが慌てて視線をベッドへ転じる。彼はリガの右手を取ると、祈るように両手で包み込んだ。
「ガヴィ、お姉さんを責めないで……。あの人は、僕を助けてくれようとしたんだから」
「大丈夫だ。おまえが心配するようなことは何もない」
 ガウェインが囁くと、リガは安心したような笑みを浮かべ、再び瞼を閉ざした。
 ラグネルは、リガの細い腕から目を離せなかった。
 先日の怪我が影響を及ぼしているのか、少年の右腕は薄紫に変色していたのだ。明かな異常を訴えている。
 ――ランスロットが切り刻んだ右腕。ランスロットが……ランスロットが……ランスロットが……!!
 心が錯乱しかける。
 ラグネルは恐慌に駆られ、激しくかぶりを振った。
「オレは、ランスロットを殺したことを後悔してない」
 リガの手を握ったまま、ガウェインが静かに告げる。
「リガのためにも、絶対に後悔するわけにはいかない。この子の苦痛が少しでも和らぐなら、オレは人殺しにだってなれる」
 ガウェインが首だけをねじ曲げてラグネルを振り返る。
 ランスロットと同じ若葉色の双眸は至極真摯だった。その視線に痛いほどの決意を感じて、ラグネルは愕然とした。
「わたし……わたし……は――」
 ――ランスロットの何を知っていたのだろう?
 ラグネルは悄然と床に座り込んだ。
 とめどなく涙が溢れてくる。
「どうすればいいの……? ランスロットはアヴィリオンに行けと言ったわ。でも、ここに何が待ってるっていうの? わたしに――何ができるっていうの?」
 虚しい自問が唇から零れ落ちる。
「わたしはここで生まれ、ここで育ったの? そうだとしたら、一体何のために……? ごめんなさい。記憶がないの。わたしは……何も覚えてないのよ」
 ラグネルは涙にまみれた顔を上げ、ガウェインを見つめた。
 最早、彼を責め立てる気力は完全に萎えていた。
 底知れぬ虚脱感だけが全身を満たしている。
「オレは、あんたのことなんて知らない。ランスロットが何故、あんなことを口走ったのかも解らない」
 ガウェインが当惑したようにラグネルを見返す。
「ねえ、教えて。ランスロットは、ここで何をしていたの? あなたたちが博士を憎むのはどうして? アヴィリオンでは何が行われていたの?」
 己の無知が、とてつもなく恨めしかった。
 ランスロットに関して、本当のことを何一つ知らなかった自分に無性に腹が立つ。
 ランスロットと過ごす日々が心地よくて、失った記憶を呼び起こすことを心の何処かで無意識に避けてきた。
 だが、今こそ真実に向き合う時なのかもしれない。
 真実に正面から相対し、受け止めるべきなのだろう。
 ――もう目を逸らすことはできない。わたしは過去へと繋がる場所に来てしまった。
 ラグネルはゆっくりと室内を見回した。
 ――わたしは真実を知らなければならない。
 ガウェイン、モリガン、ガラハッド、リガ――それぞれの姿が順に視界を巡る。
「お願い。わたしに知っていることを教えて」
 心からの嘆願が素直に唇から滑り落ちた。


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2009.09.08 / Top↑
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