ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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『長くは生きられないから』
 ラグネルの耳には、リガがそう言ったように聞こえた。
「どうして……そんな不吉なこと言うのよ!」
 ラグネルはやり切れない哀しみと怒りを感じながら、長い髪を振り乱すようにして身を翻した。
「行くな」
 しかし、突如として制止の声をかけられる。
 声のした方に視線を転じると、眩い銀色の髪が視界に飛び込んできた。
 ガウェインが壁に背を寄り添わせ、パスタを盛りつけた皿を片手に佇んでいる。
「あんたは戻るな。ここからはオレの領分だ」
 硬質の声音がガウェインの口から紡がれる。
 顔は怖いくらいに無表情だった。
「もしかして、聞こえちゃったの?」
 ラグネルは恐る恐るガウェインの顔を覗き込んだ。
 リガの最後の一言は、ガウェインの胸を鋭利に抉ったに違いない。
「盗み聞きするつもりはなかったんだけどな。オレの五感は他人より優れてるんだ。その気になれば、地下二十階の物音を全て拾うことができる」
 言い訳じみたガウェインの言葉を聞いて、ラグネルは深い溜息を洩らした。どうやらリガとの会話は筒抜けだったらしい。
「盗み聞きなんて感心しないわね。でも今は、あなたを叱り飛ばすこともできない複雑な心境だわ」
「あんたが悩む必要はないし、オレは……心の何処かで覚悟している。リガの生命は、オレより短いだろう」
「ちょっと、やめてよ。あなたまで気弱になって、どうするのよ」
 ラグネルは思い切り眉をひそめ、ガウェインを睨みつけた。
「サイボーグ化は残った生身の部分に負担をかける。それだけでも大変なのに、リガの肉体は初めからサイボーグ・パーツに拒絶反応を示していた。サイボーグに不適合な肉体を薬で誤魔化して、今までやり過ごしてきたんだ。それに耐えてきたのは、家族の仇であるランスロットを抹殺するためだ。目的が成就した今、リガの生への執着は稀薄になってる」
「そんな話、聞きたくない。あの子の死を想像するなんて御免だわ。耐えられない」
「誰よりも耐えられないのは――このオレだ」
 鉄壁の無表情のままガウェインが呟く。
 ラグネルはガウェインを凝視し、返す言葉もなく閉口した。
「だから、死なせない。オレもあんたとは相性最悪だと思うけど、リガが望むなら一緒に暮らしても構わない。それが、リガの生への執着になるならな。――じゃ、オレは戻る。悪いけど、あんたは自分の部屋に帰ってくれ」
 訥々と述べ、ガウェインは壁から背中を引き剥がした。
「ねえ、待って――」
 ラグネルは、脇を擦り抜けようとするガウェインを咄嗟に呼び止めていた。
「わたし、あなたたちと一緒に残りの博士を捜すわ」
 決意を告白すると、ガウェインは僅かに顔をしかめた。突然の言葉に驚いているようでもあり、迷惑しているようにも見える。
「わたし、自分捜しを始めることに決めたの。わたしがアヴィリオンで生まれたことに何か意味があるのか知りたいの。ランスロットがわたしの出自を知りながら隠していたことも気になるしね」
「あんたも博士たちの秘密を知りたいってわけか」
「ええ。自分自身の謎を解き明かすには、残る二人の博士に接触し、答えを提示してもらうのが確実だと思うの。だから、わたしも博士たちを捜すわ」
「……好きにしろよ。何をするのも、あんたの自由だ。オレたちにあんたの行動を制限する権利はない。但し、オレたちと行動を共にしたいなら、邪魔だけはしないでくれ」
「邪魔なんてしないわ。あなたがわたしの意志を尊重してくれたように、わたしにもあなたたちの邪魔をする権利はないもの」
「尊重したつもりはないけどな。あんた――変な女だな」
 ガウェインの顔に微苦笑が刻まれる。
 若葉色の双眸が、ラグネルに対する興味と好意を示すように輝いた。
「わたし、そんなに変かしら?」
 ラグネルが首を捻ると、ガウェインはまた笑った。
「自覚がないのが変な証拠だ」
 ガウェインが再び足を動かし始める。
「あなたの瞳、とても綺麗よね」
 ガウェインの背を眺めながら、ラグネルは率直な感想を口にした。
 直後、ガウェインの肩が大きく震える。
「褒めてくれたのに悪いけど――本物じゃない。ランスロットが造ってくれた義眼だ」
 自嘲の言葉を残し、ガウェインはリガへの部屋へと消えてゆく。
「それでも、綺麗よ」
 閉ざされたドアに向かって、ラグネルは静かに呟いた。
 ランスロットと同じ色彩を持つガウェインの瞳は、本物と寸分違わぬように見えた。精緻すぎる義眼だ。若葉色の輝きを放つ双眸は、感情さえ伴っているように見受けられた。
「ランスロットは、本当にガウェインのことが好きだったのね。大切にしていたのね。……馬鹿ね。だったら、どうして捨てたりしたのよ?」
 自然と疑問が唇から滑り落ちる。
 ――ねえ、教えてランスロット。あなたがアヴィリオンを捨てた理由を。
 愛情をもって接し、大切に育ててきたはずのガウェインたちを見捨てた博士たちの心情など、露ほども理解できない。
「馬鹿ね、ランスロット」
 悄然と呟き、ラグネルは身を翻した。


     「Ⅵ」へ続く



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2009.09.15 / Top↑
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