ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 Ⅵ



「よし、準備完了!」
 テーブルに並べたティーセットとスコーンの入ったバスケットを眺め、ラグネルは満面の笑みを浮かべた。
 アヴィリオン地下二十階には、広いラウンジが設けられている。
 毎日、このラウンジで午後のお茶を嗜むのが、ラグネルの日課となっていた。
 アヴィリオンで暮らし始めて十日目。
 その間に気づいたことは、ガラハッド以外の住人は全く外界に出ず、地下に籠もっているという事実だった。食糧調達や諸々の買い物は全てガラハッドの役割らしく、他の者は地下で思い思いに時を過ごしている。
 そんな彼らの単調な暮らしを見かねて、ラグネルは午後のお茶会を開く決心をしたのである。
 ラグネル自身、地下二十階の探索に匙を投げかけているという現状も一因している。
 自分の過去に関わりのある物がないか、とアヴィリオン内を隈無く捜し回っているのだが、手懸かりになりそうな物は一向に見つからない。
 ラグネルが探険を諦め、お菓子作りに精を出し始めるのに、そう長い時間は要しなかった。
「今日はスコーンよ」
「嬉しいな。故郷のお菓子だ」
 ラグネルの言葉に、巨大モニターを眺めていたリガが顔を輝かせて振り返る。
 スコーンは英国の伝統的なお菓子だ。ガウェインからリガの好物だと聞き、ラグネルは気張って作ったのである。リガの明るい笑顔を見られただけでも腕をふるった甲斐がある。
「さーて、ガラハッドとモリガンを呼んでこなくちゃね」
「ガラなら出かけてる。今日は、北エリアでショーがあるって言ってた」
 ラウンジを出ようとしたところで、ガウェインが声をかけてくる。
 ラグネルはいつの日か街頭で目にした広告のことを思い出し、足を止めた。今日が告知されていたイリュージョン・ショーの開催日であるらしい。
「マジシャン・ガラハッドは多忙なのね。そういえば、どうして彼だけ外の世界で仕事してるの?」
 ラグネルはガウェインに視線を転じた。
 ガウェインは入口付近のソファに座り、拳銃の手入れをしている。彼の前にあるテーブルには、所狭しと様々な銃器が並べられていた。超能力者といえども拳銃は必需品であるらしい。
「資金繰りのために決まってるだろ。地下の研究には莫大な金が要るんだよ。だから、博士たちはガラの能力を最大限に活かすことにしたんだ。オレがアヴィリオンに来た時、あいつは既に《マジシャン・ガラハッド》だった」
「彼の超能力なら物体消失イリュージョンも簡単にできちゃうわよね。でも、ちょっとガッカリだな。あの素晴らしい奇術が超能力だったなんて」
「ガラのマジックには、ちゃんとトリックがあるよ。ショーで観せるものは、歴とした手品なんだ」
 リガがラグネルの勘違いを即座に正す。
「ガラは、好きなことは極めないと気が済まない質だからな。博士たちに手品師になれと言われて、ガラは家出したらしい。行方知れずになって約一年、博士たちはテレビでマジックを披露するガラを観て大慌てした――って話をモリガンがしてくれた」
 ガウェインがようやくラグネルの方に顔を向け、苦笑混じりに言葉を紡ぐ。
「その一年でマジシャン修行をしたってわけね。凄い人ね。たった一年で、スーパーイリュージョニストになっちゃうなんて。極めないと気が済まない性格が幸いしたのね、きっと。でも、ヘビースモーカーを極めるのだけは遠慮してほしかったわね」
 ラグネルが真顔で告げると、ガウェインとリガは大きく頷いた。彼らもガラハッドの吐き出す大量の紫煙には頭を悩ませているらしい。
「――と、お茶が冷めないうちにモリガンを呼んでこなきゃ」
 話題が一段落したところで、ラグネルは本来の目的を思い出した。
 慌てて足を踏み出した瞬間、
「アーラ、お子様たち、お揃いで何やってるの?」
 当の本人が廊下に姿を現した。
「丁度よかった。今からティータイムよ」
「もう、そんな時間? すっかり忘れてたわ」
 モリガンは数度瞬きを繰り返した後、颯爽とラウンジに入ってくる。
「折角用意してくれたのに悪いけど、これから人と逢う約束してるのよね」
 モリガンにそう言われて、ラグネルは彼女が常より華美な装いをしていることに気がついた。
 長い巻き毛は綺麗にセットされ、化粧はいつもより入念に施されている。胸元の大きく開いた蒼いシルクのタイトドレスに、プラチナのイヤリングとネックレスがよく映えていた。左の二の腕には、ナンバリングを隠すために銀細工の太い腕輪が填められている。
「何処に出かけるんだ?」
「デートよ、デート。決まってるでしょ」
 ガウェインの問いにモリガンは艶然と微笑んだ。
 ハイヒールの踵を鳴らしながら闊歩し、ガウェインの傍に立つ。彼女はテーブルに並べられた様々な拳銃をしばし物色した後、サイレンサー付きのオートマチック小銃を手に取った。
「コレ、借りるわね」
 茶目っ気たっぷりの笑顔で銃身にキスし、モリガンはそれを豊かな胸の谷間に忍ばせる。
「一緒にお茶できなくてゴメンね。この埋め合わせは必ずするわ」
 ラグネルに向けて強烈なウィンクを放ち、モリガンはドレスの裾を翻した。
 素晴らしく美しい後ろ姿を見せて、ラウンジから立ち去ってゆく。
「ねえ、デートって――いつ、どうやって相手と知り合ったのかしら? モリガンは地下に籠もりきりだったのに……」
「さあな。どうせ、表立って動いてたのはモルゴスだろ」
 ガウェインが無愛想に応じる。
「モルゴスって、誰よ?」
「モリガンの双子の妹」
「えっ、モリガンって双子だったの!? じゃ、モルゴスさんもここに?」
「いや、モルゴスはとっくの昔に死んでる。けど、今はモリガンの裡に棲んでるんだ」
「はあ……? ますます意味が解らないわ」
 淡々と述べるガウェインに不審の眼差しを投げる。
 ガウェインにとっては些細な事柄なのか、彼は銃の手入れに勤しんでいた。
「あなたたちを理解するには、まだまだ時間が必要みたいね」
 溜息を落とし、ラウンジ中央のテーブルへと引き返す。
 ラグネルにとって彼らの性癖や特殊能力は、己の過去と同じく未だ多くの謎に包まれていた。



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2009.09.16 / Top↑
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