ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 スコーンと紅茶を囲んでの和やかな時間が流れていた。
 リガは好物であるスコーンを嬉しそうに頬張り、その隣でガウェインが申し訳程度に紅茶に口をつけている。
 くつろいだ二人を眺めていると、ラグネルは時折彼らが殺人者であることを忘れてしまう。
 大好きなランスロットを奪われたという現実も、遠くなりかけてしまうことさえある。
 ――わたしは二人のことが好きなんだ。
 彼らに対する好意をラグネルは認めつつあった。
 憎んでいいはずの彼らと暮らすことを決意したのは、彼らに好感を抱いていることの顕れだ。
 ランスロットを亡くしたばかりなのに不謹慎だとは思うが、彼らを憎悪する気持ちは一緒に暮らすうちに徐々に薄れていた。
「モリガン、何処に行ったのかしらね?」
 ラグネルは、巨大モニターに映るテレビ放送を何とはなしに眺めながら呟いた。
「デートって言ってたから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
 食べる手を休め、リガが微笑む。
「銃を持っていったから、ただのデートじゃないだろうけどな」
 呆れ混じりのガウェインの声。
 ラグネルはしかめっ面で彼を見遣った。
「護身用に持っただけでしょう。わたしが気にしているのは、さっき天気予報で夕方から嵐になるって聞いたからよ。太平洋上をハリケーンが通過するんだって」
 ブロスリアンドは直撃を免れるらしいが、それでも台風による影響は充分にあるだろう。交通機関が麻痺してしまう怖れもある。外出したモリガンが無事に帰ってこられればよいのだが……。
「モリガンなら平気だ。酷い嵐になったら男の部屋にでも泊まるだろ」
 ラグネルの心配をよそにガウェインは楽天的な見解を述べる。あまりにも脳天気な意見にラグネルが抗議しようと口を開きかけた時、
「あっ、ウサミ議長だ……!」
 リガの口から驚きを孕んだ呟きが洩れた。
 その声に釣られて、ラグネルはモニターへ視線を転じた。
 巨大画面にはアキラ・ウサミの姿が映し出されている。
 先日のニュース同様、彼は多くの報道陣に囲まれていた。議事堂から出てきた瞬間を捕まったらしい。
『ウサミ議長! ドクター・エーリッヒ殺害事件の犯人に心当たりは?』
『議長は事件に関与しているのですかっ!?』
 各局のレポーターが爛々と目を輝かせ、ウサミ議長に詰め寄っている。
 だが、議長は黙したままだ。
「エーリッヒを殺したのは僕だ。ウサミ議長を追及したって無意味なのに……」
「議長が口を割ることはないし、おまえが捕まることもない。中央捜査局の連中が巧く処理してるはずだからな」
 唇を噛み締めたリガの肩をガウェインが安堵させるようにそっと抱く。
『議長、アヴィリオン閉鎖の真相を――』
『止めて下さい。父は連日の政務で疲れているんです』
 不意に画面を端整な青年の顔がよぎった。
 アキラの息子――フレイだ。
『事件に関する質問は一切受け付けません。スケジュールが押しているので、失礼します』
 フレイは報道陣から父親を庇うようにして前に進み、彼を車の後部座席へ押し込んだ。
 そこで画面が切り替わり、テレビ局のスタジオが映し出される。
 女性アナウンサーがエーリッヒ殺害事件の概要を話し始めたが、ラグネルの耳に内容は全く入ってこなかった。別の事柄に意識を奪われていたのだ。
「ランスロットの死は、全く報道されないのね?」
 報道陣は誰もランスロットについて言及していない。その点にラグネルは違和感を覚えたのだ。
「ああ、捜査局が揉み消したんだろ。エーリッヒの件もそうなるべきだったのに、そっちの方は手際が悪かったらしい」
 ガウェインが眉間に皺を寄せる。
「じゃあ、ウサミ議長はあなたたちが犯人だって知ってるのね?」
「当然だろ。議長はアヴィリオンの設立者であり、捜査局のボスだ。博士たちに消えてもらいたいのは、議長も同じ――アヴィリオンの秘密が博士たちから漏洩するのを怖れてるんだ。だから、オレたちの所業を黙認してるのさ」
「ふーん、議長にとって都合が悪いことは、彼直属の中央捜査局が揉み消しちゃうわけね。ドクター・ミユキの自殺も不幸な事故として処理されてるし……。もしかして、議長は彼の自殺理由も知ってるのかしら?」
「さあな……」
 ガウェインがますます顔をしかめる。
 ウサミ議長が全ての真相を知っているのかどうかは、彼らにも判然としないのだろう。
「ウサミ議長といえば――ミユキという長女がいたこと、知ってる?」
 急に議長に関する知識を思い出し、ラグネルは話題を切り換えた。
 ドクター・ミユキの名を口にしたことで、同じ名を持つウサミ家の長女を想起したのだ。
「ミユキ……?」
 リガが不思議そうに小首を傾げる。
「そういえば、フレイの上に姉がいたって話は聞いたことがあるな。数年前に他界してるんじゃなかったか?」
 曖昧な記憶を掘り起こしているのか、ガウェインの目が眇められる。
「そうそう、それがミユキ・ウサミよ。ドクター・ミユキと名前が同じなのは、単なる偶然でしょうけどね。ミユキ・ウサミは、和名でこう表記するらしいわよ」
 ラグネルは手近にあった紙とペンを引き寄せ、そこに『宇佐美深雪』と漢字を綴った。
「へえ、深雪ね。ウサミ一族は日本出身だもんな。それにしても、あんた――ホントに記憶を失ってるのか? ミユキ・ウサミの存在と漢字を知ってるなんて驚きだ」
 ガウェインが紙面に視線を落としたまま、訝しげに問いかけてくる。
「失ってるわよ。でも、自分以外の事柄に関しては、驚くほど知識が詰まってるみたい。ブロスリアンドのことも解るし、料理も作れるし、一般常識も備わってるらしいわね。今、漢字が書けるってことも新たに発見したわ」
「――宇佐美深雪さんは、どうして亡くなったの?」
 ミユキ・ウサミのことを知らないらしく、リガが質問を投げかけてくる。
「ブロスリアンド完成の年――えーっと、今から九年前にね、事故に遭って生命を落としたらしいの。火星に向かうシャトルに乗ってたんだけど、そのシャトルが出発直後に爆発事故を引き起こしちゃったのよ。乗客は全員死亡。原因はエンジントラブルだって。遺族にとっては、やり切れない惨事よね」
「記憶喪失のくせに、物凄くしっかり覚えてるな」
 ガウェインの呆れを孕んだ声に、ラグネルは大仰に肩を聳やかしてみせた。
「わたしの場合は記憶喪失じゃなくて、自己喪失なのよ」


     「Ⅶ」へ続く



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2009.09.16 / Top↑
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