ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 空のカプセルが並ぶ純白の室内。
 ラグネルは、虚しさを漂わせるカプセル群の合間をゆっくりと進んでいた。
 地下二十階をフラフラと彷徨っているうちに、無意識に自分が生まれたZナンバー研究室に足を運んでいたのだ。
「パーシヴァル。ボールスにモルドレッド……」
 銀のプレートに刻まれた名を読み上げながら、《Z99》のカプセルを目指す。
「あれ? これって……もしかして《円卓の騎士》なの?」
 歩きながら、ラグネルは急に頭に閃いた想像に呆けた声をあげた。
 前回この部屋を訪れた時には、しげしげと観察する余裕がなかった。しかし今、改めて刻まれた読み上げるとすぐに奇妙な符丁を発見することができたのだ。
 刻印されている名は、古くからヨーロッパに伝わっている《アーサー王伝説》に纏わる人物ばかりなのである。
「へえ。ドクター・ミユキって、アーサー王のファンだったのかな? そういえば、アヴィリオンも瀕死のアーサーが目指したっていう楽園の島――アヴァロンの別名だったわよね。あっ、じゃあ、アーサー王好きは、ウサミ議長かフレイかしら? 何にせよ、こんなところにまで茶目っ気出さなくてもいいのにね」
 創ったヒューマノイドたちにアーサー王伝説の登場人物の名を冠するという徹底振りに半ば辟易しながら、ラグネルは歩を進めた。
「アヴィリオン――楽園。フレイや博士たちは、ここを楽園にしたかったのかしら……。夢見た楽園を自分たちの手で崩壊させちゃうなんて、皮肉よね」
 独り言ちながら《Z99》のカプセルの前に立つ。
 ラグネルはかつて自分が眠っていた場所を見つめた。
 ラグネルの名が記されていたであろうプレートには、醜い傷痕しか残されてはいなかった。博士たちの誰かが故意にラグネルの名を削り、消滅させてしまったのだろう。
「博士たちやエージェントにもアーサー関連の名前が多いけど――まっ、これは単なる偶然よね」
 忍び笑いを洩らしながら、そっと傷だらけのプレートに指を這わせる。
「円卓の騎士たちが聖杯の探求に旅立ったように、ガウェインたちは真実の探求を続けてきた。わたしたちが決意したことは、聖杯の探求なのかもね。――変なの」
 プレートから手を離し、また微笑する。
 浮かべた笑みには自然と苦いものが混ざった。
「フレイ・ウサミが手にする聖杯には、どんな真実が注がれているのかしら」
 博士たちを慄然とさせ、ガウェインたちを苦しめる元凶となったものを、フレイは握っているのだ。それはきっと、とてつもなく忌まわしい真相に違いない。
「どんな怪物に遭遇するか解らないけど、とにかく聖杯まで辿り着かなきゃね。そして、物語の幕を下ろすのよ」
 決然と言葉を放ち、ラグネルはカプセルから離れた。
 もう二度と訪れることはないであろう室内を見回してから、出口へと引き返す。
 カタン、と小さな物音が響いたのは、その時だった。
 カプセルの間を人影がよぎる。
「……誰?」
 ラグネルはハッと顔を上げ、鋭い視線を周囲に巡らせた。
 遠く離れた位置にあるカプセルの横に、何者かが佇んでいる。
 だが、距離がありすぎて、その顔までは判別できない。男性だということは、背の高さや骨格から辛うじて解った。
「誰なの? あっ、ガラハッドでしょ! この前みたいに驚かそうとしたって駄目よ」
 ラグネルは人影に向かって明るい声を放った。
「ちょっと、返事ぐらいしてよ!」
 返答がないことを不審に思いながら声を大きくすると、相手はようやく行動を起こした。
 ラグネルに向かって男が歩み寄ってくる。
 足音が広い室内に不気味に反響した。
「ガラ……ハッド……じゃないの?」
 ラグネルは険しい顔で男を見つめた。
 男は、ガラハッドのような長髪ではない。かといって、ガウェインでもリガでもなかった。
「ラグネル」
 男が静かな声音でラグネルを呼ぶ。
 照明に反射して、男の顔で何かが光った――眼鏡のレンズだ。
 それを確認した刹那、ラグネルは反射的に後ずさっていた。
「いやよ。やめてっ……。どうして、ここにいるの、ランスロット!?」
 口から金切り声が迸る。
 ラグネルは青ざめた顔で、向かってくる男を見つめた。
 男の容貌は、紛れもなくランスロットのものだった。
「おいで、ラグネル」
 ランスロットの顔が優しい微笑みを湛える。
 だが、それは偽りだ。紛い物だ。
 ただのレプリカだ。
 フレイの創ったヒューマノイドだ。
 ランスロットは疾うにこの世を去っている。
 頭では理解しているが、感情が追いつかなかった。
 激しい動揺がラグネルを襲う。
 視線はランスロットの顔に釘付けにされ、身体は呪縛されたように動かない。
 悠然と接近してくるランスロットに畏怖の眼差しを注ぎ、ラグネルは嘆願した。
「来ないで、ランスロット――」


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2009.09.19 / Top↑
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