ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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『緊急事態発生、緊急事態発生――』
 廊下にも毒々しい赤光が溢れている。
 深紅の輝きとマシーンボイスの無機質な響きが、廊下を不気味な空間に造り替えていた。
「ちょっと何なのよ? うざいわよっ!」
 ガウェインたちが廊下に出るのとほぼ同時に、モリガンとガラハッドもそれぞれの部屋から飛び出してきた。
「エマージェンシーなんて、ミユキの火事以来だな。今度は何なんだ?」
 ガラハッドが異常を確かめるように、周囲に目を配る。
「ラグネルがエレベーターで、何か厄介事を起こしたらしい」
 緊迫した声でガウェインが告げると、モリガンとガラハッドは困惑したように顔を見合わせた。
『エリアEは緊急停止・封鎖。館内にいる研究員及びエージェントは、速やかにセーフティエリアに移動して下さい』
「はっ、封鎖? セーフティ? 何、バカなこと言ってんのよ。バイオハザードじゃあるまいし!」
 モリガンは苛立たしげに吐き捨て、壁面で緑色に輝く《EMERGENCY》の文字を掌で叩きつけた。
 すると、天井の一部が口を開け、そこから薄っぺらい液晶画面が降りてくる。地下アヴィリオンの全システムを総括するマザーコンピュータに繋がる端末だ。
「エリアEがどうしたって? 説明しなさいよ」
 モリガンは液晶に左手を押し当てると、荒々しく言葉を捲し立てた。
『指紋・声紋・網膜紋確認。コードナンバー《Y8》モリガン、ご指示をどうぞ』
 マザーコンピュータがマシーンボイスで応じる。
「エリアEで何が起こったの?」
『非常ボタンが押されました』
「たったそれだけで、何でエマージェンシーなわけよ?」
『指紋・声紋・網膜紋――全て照合不可能な人物を二人、確認しました』
「正体不明の侵入者ってわけね。映像転送して」
 モリガンが液晶から手を離した途端、そこにはエレベーター内部を映し出した画像が広がった。
 モリガンの肩越しにその画面を覗き込み、ガウェインは忌々しげに舌打ちを鳴らした。
 ラグネルの他にもう一人、男が乗っている。その顔は、紛れもなくランスロットのものだった。
「ラグネルは三年前に登録抹消されてるから、照合できなくて当たり前。――で、出来損ないのランスロットは、指紋も声紋も網膜紋もランスロット本人とは合致しないってわけか。博士たちの創ったマザーコンピュータのセキュリティは完璧だってことだな」
 ガラハッドが緊迫した場にそぐわぬ呑気な声で呟く。
『エリアEが私の制御を振り切り、単独で動き始めました。緊急事態です』
「ハイハイ。指紋も声紋も網膜紋も微妙に違うけど、頭脳だけはランスロットと同じか、それに近いってことね」
 モリガンが投げ遣りに応じる。
『モリガン、ドクターの指示を仰ぎ、エージェントは直ちに侵入者を排除――』
「言われなくても解ってるわよ。それから、地下二十階にはもうドクターなんていないから、あたしたちが勝手にやらせてもらうわ。――ということで、お願いね、ガラ」
 マシーンボイスを無視してこちらを振り返ると、モリガンは艶やかな笑みを浮かべた。
「上へ跳べばいいんだろ」
 ガラハッドが得心顔で告げる。
 次の瞬間、彼の姿は消失していた。特殊能力で空間移動したのだ。
 いち早く地上のアヴィリオンへ赴く手段としては、ガラハッドの特殊能力が最適だ。

「あの女、ランスロットの顔に騙されて、のこのこついていったわけじゃないよな」
 ガウェインの憮然とした呟きに、リガが首を横に振る。
「無理矢理拉致されたんだよ。それじゃなきゃ、非常ボタンを押すはずがない」
「フレイのヤツ、中々侮れないわね。ラグネルちゃんの存在を知った途端、真夜中に奇襲をかけてくるなんて……! あいつはアヴィリオンの影の設立者だものね。ここを知り尽くしてるから、侵入もさぞかし簡単だったんでしょうね」
「オイ、あんまりカリカリするなよ」
 親指の爪を噛むモリガンを見て、ガウェインは眉をひそめた。
 夜中に叩き起こされて不機嫌なのは解るが、もう少し落ち着いてほしい。起こった事態を冷静に見極め、判断し、次の行動を決定しなければならないのだ。
「そうね。イライラするとお肌に悪いわね」
 ガウェインの気持ちを汲んでくれたのか、モリガンはアッサリと唇から指を離し、大きく息を吐き出した。
 直後、モリガンの間近で空気が歪んだ。
 一瞬にしてガラハッドが姿を現す。
「アラ、早いわね」
 モリガンが驚いたように眉をはね上げる。
「逃げられた――というより、俺が到着した時にはエレベーターはもぬけの殻だった」
 厳しい表情でガラハッドが報告する。
「じゃあ、お姉さんは連れ去られたの?」
「おそらくな。一応周辺も見回ってきたけど、影も形も見当たらなかった」
「あいつ、手間かけさせやがって……。まっ、行き先は知れてるからいいけどな」
 ラグネルの勝ち気な顔を脳裏に思い浮かべ、ガウェインは大仰に溜息を吐き出した。
 ラグネルがフレイの陰謀によって拉致されたのなら、行き先はウサミ家に決まっている。それだけが救いだ。
 余計な場所を捜し回る手間が省ける分、ラグネル救出までの時間も短縮することができるだろう。
「どうせ拉致先はウサミ邸でしょ。予定が一日繰り上がっただけのことだわ。――みんな、IDカードはちゃんと持ってるわよね?」
 モリガンが意味深な眼差しを皆へ向ける。
「オレたちは持ってるけど、ラグネルは?」
「身に付けておくように口うるさく言っておいたから、大丈夫でしょう。さあ、出発するわよ! ここにはもう二度と戻らないから、そのつもりでね」
 モリガンの言葉に、ガウェインは寡黙に頷いた。
 この地下二十階に別れを告げる時がやってきたのだ。
 ラグネルを奪還し、フレイに真相を訊き出せば、後は各自ブロスリアンドを脱出するだけだ。この地下に舞い戻ってくる必要はない。
「リガの薬や処方箋の類は、ブロスリアンド中央銀行の貸金庫にガラハッド・ローエングリン名義で預けてある。当面の資金も同じ名義の口座から自由に引き出すといい。IDカードで全ての手続きができるように細工してある」
 ガラハッドが真摯な口調で告げ、片手をモリガンへと差し出す。
 モリガンは遠慮なくその手に自分の両腕を絡ませた。
「マジシャン・ガラハッドは引退しても、莫大な資産と社会的地位と信用は残る――と。素晴らしいわね、ガラ。やっと肩の荷が下りて、トリスタンに戻れるじゃない」
「そんな名前、しばらく使ってないから馴染みが薄いけどな。それに、まだマジシャン・ガラハッドだ。最後のショーが待ってるからな。――ガウェイン、リガ、行くぞ」
 ガラハッドが残る一方の手を伸ばし、ガウェインの肩を掴んだ。
「リガ、離れるなよ」
 ガウェインは慌ててリガを引き寄せ、その腰をしっかりと腕に抱いた。ガラハッドの意図が解っているから、絶対にリガを離すわけにはいかない。
 これから自分たちは跳ぶのだ――ウサミ邸へ。
「さて、ほんの一時、皆さんを空間旅行へ誘うとしますか」
 ガラハッドがおどけた口調で出発を告げる。
 刹那、地下二十階を埋め尽くしていた赤光が消失し、視界は闇に閉ざされた――


     「XI」へ続く



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2009.09.19 / Top↑
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