ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 視界が正常に戻った時、ガウェインは見知らぬ室内に立っていた。
 空間移動が終わりを告げたのだ。
 素早く視線を自分の隣に向ける。リガの姿はちゃんとあった。
 ガラハッドとモリガンも傍にいる。
 自分たちは、無事にアヴィリオンからウサミ邸へと跳ぶことに成功したのだ。
 ガウェインは、ここがどこであるかを見極めようと室内に視線を流した。
 だが、見極める必要は全くなかった。
 この屋敷の主が、すぐ目の前に存在していのだ。
 五十代半ばと思しき男が豪華な職務机に着き、書類にペンを走らせている。
「ウサミ議長」
 ガウェインの呼びかけに男はペンを止め、視線を上げた。
「やあ、君たちか」
 特別驚いた様子もなく、屋敷の主――アキラ・ウサミは穏やかに微笑した。
 ガラハッドが着地点として選択したのは、ウサミ議長の書斎だったらしい。
 彼には、日中は議長官邸で政務に勤しみ、夜間は私邸で過ごすという習慣がある。この時間、彼が私邸に籠もっていても何ら不思議はなかった。
 都合のいいことに、書斎には議長の姿しか見当たらない。
「君たちに逢うのも久しぶりだね。まだ地下二十階に住んでいるようだが、あそこは近々取り壊す予定だ。売却の目途が立ったんでね。地下二十階の痕跡は、跡形もなく消さなければならなくなったんだよ。君たちには地上に出てもらわなければならない」
 突然の訪問にもかかわらず、議長はひどく落ち着いていた。危機など微塵も感じていない、余裕に満ちた態度だ。ガウェインたちが訊ねもしないのに、地下二十階の今後を悠長に語ってくれたりしている。
「あたしたち、明日にでもあそこを出るからご心配なく」
 モリガンが嫌悪も露わにフンと鼻を鳴らす。
「そうか。君たちには――」
「ラグネルはどこだ?」
 まだ言を連ねようとするウサミ議長を遮り、ガウェインは厳しい口調で尋ねた。
「さっき地下に何者かが忍び込み、女をさらっていった。この屋敷に連れ込まれたみたいなんだけどな。居場所を教えろよ」
「ラグネルという女性のことは知らないが――フレイなら別館にいる」
 議長の口から溜息混じりの言葉が吐き出される。
「別館にはフレイの私室がある。そこに地下へと続く階段があるはずだ。フレイは地下の研究所にいるだろう」
「そんなに簡単に教えていいのか? 警護の者も呼ばずに俺たちを歓迎するなんて、あなたらしくない」
 ガラハッドの猜疑の言葉に、議長は薄笑みを浮かべた。その微笑には、疲労と幾ばくかの諦めが滲んでいるように見える。
「君たちの能力のことは、中央捜査局の指揮を執る私が誰よりも知悉している。君たちを止めることなど不可能だし、君たちの邪魔をする気もない。私はフレイの犯した罪を知っているし、それを黙認していたという点では、私も息子と同罪だ」
 あくまでも平静を保ち、議長は言葉を継ぐ。
「息子は、ある日を境に変わってしまった。狂ってしまったのだよ。それでも、私にとっては大切な息子だ。そう、フレイも深雪も……二人とも私の大事な子供だ」
 議長の顔に寂しげな笑みが広がる。
 彼は机の抽斗を開けると、徐にそこから何かを取り出した。
 机の上にそれらを並べ、議長はガウェインたちを手招きする。
 一行は、訝しみながらも机へと歩み寄った。
 議長が机上に並べたのは数枚の写真だ。
「この男が誰なのか知っているかい?」
 議長が一枚の写真を指差す。
 被写体は、白衣姿の見知らぬ青年だった。
 至って平凡な、これといった特徴もない男。顔立ちから東洋の血が混じっていることは察せられるが、記憶の片隅にも引っかからない人物だ。
 ガウェインたちが一斉に首を振ると、議長は苦い笑みを零した。
「知らないのも無理はないだろうな。この青年は、年がら年中研究室に籠もり、人前に姿を現すことは滅多になかった。生命工学の寵児だと謳われながら、その顔は世間には全くといっていいほど知られていない。フレイとは大学の同期だった男だ」
 議長の指が別の写真を示す。
 青年とフレイが肩を並べて笑っている写真だった。
「フレイの親友であり、研究仲間であり、娘の恋人だった。この男こそが、正真正銘――ミユキ・クルミザワ博士だ」
「これが……本物のドクター・ミユキ?」
 議長の思いがけない告白に、ガウェインは悚然と目を瞠った。
 自分たちの知るミユキとはかけ離れた容貌を持つクルミザワ博士の写真を凝視する。『これがミユキ・クルミザワだ』と言われても、何の実感も感慨も湧いてはこなかった。
「私の娘――深雪の婚約者だった。だが、九年前の不幸なシャトル事故で生命を落としてしまったのだよ。私の深雪と共にね。そして、あの事故からフレイは変わった。何かに取り憑かれてしまったように豹変した……。クルミザワ博士の死を隠匿し、ヒューマノイド研究に没頭するようになってしまったのだよ。そうして生まれたのが、君たちの知るアヴィリオンのドクター・ミユキだ」
「何故、フレイはヒューマノイドを?」
 リガが震える声で呟く。
「クルミザワ博士の頭脳を甦らせたかったのだろう。彼をモデルにヒューマノイドを創っても、それはクルミザワ博士ではないのにな……。息子は狂ってしまったのだよ」
「フレイは、クルミザワ博士の頭脳を何に活用したかったんだ?」
 ガウェインは眉間に皺を刻んだ。
 答は訊かなくても解ってしまったような気がしたが、無意識に質問が口をついて出ていた。
「フレイは姉を心から慕っていた。全ては深雪のためなのだよ。フレイは深雪の死を頑なに拒絶し、決して受け入れようとはしなかった。息子は、今でも姉が生きていると信じている」
 苦悩を滲ませた言葉を吐き、議長は再び抽斗を引いた。
「これが私の娘――深雪だ」
 重々しい声と共に、新たな写真が差し出される。
 それを目にした瞬間、ガウェインは新たな驚愕に息を呑んだ。
 他の者たちも固唾を呑んで写真に見入っている。
「フレイの考えが倫理に反すると解っていても、私には息子を止めることなどできなかった。娘を溺愛していたのは息子だけではない。私も同じなのだよ」
 ウサミ議長の苦渋に満ちた呟きが、室内に重苦しい空気をもたらす。
 ガウェインは声もなく、食い入るように写真を見つめていた。
 ミユキ・ウサミの写真を見た途端、ガウェインには全てのからくりが解ってしまった。
 フレイが博士たちの手からラグネルを奪おうとした原因も解明した。
 写真の中で微笑む宇佐美深雪は、どこからどう見てもラグネルにしか見えなかった――

     
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2009.09.20 / Top↑
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