ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 Rebirth


 夜明け間近の空を背景に、ウサミ邸別館は華々しい炎を噴き上げていた。
 炎は意志を持つように蠢き、別館を蹂躙し続けている。
 少し離れた丘の上から、ラグネルはその光景を眺めていた。
 あの炎は、フレイの妄想と博士たちのヒューマノイド、そしてマーリンの処方箋を跡形もなく綺麗に焼き尽くし、浄化してくれることだろう。
 ふと、遠くから消防車のサイレンが聞こえてきた。
 ウサミ邸の異変に気づいた消防隊や警察が、ようやく動き出したのだろう。
「さてと、終わったわね」
 サイレンが響くのを待っていたかのように、モリガンが口を開く。
「あたしたちは――自由よ」
 皆を見回し、モリガンが晴々とした笑みを浮かべる。
「別館炎上については、ウサミ議長と捜査局の連中が何とか誤魔化すだろう。議長の裁量と手腕に期待するしかないけどな」
 ウサミ邸を見つめながら、ガラハッドが独白のように呟く。彼の口元にも微かな笑みが刻まれていた。
 全ての謎が解け、悲劇の源となったものもこの世から消え去った。
 それは、アヴィリオンの住人にとって、新しい世界の始まりを意味している。
 ガウェインとリガは寄り添い、やはりウサミ邸に視線を馳せていた。
 リガの顔は蒼白で、双眸は昏く翳っている。フレイによる悪辣な仕打ちの衝撃と恐怖から、まだ抜け出させていないのだ。ガウェインは、そんなリガを護るようにしっかりと彼の肩を抱いていた。
「やっと片がついて清々したわ。――それじゃお別れね、みんな」
 モリガンが淡泊に別れを告げる。
「もう行くのか?」
 ガウェインが驚いたようにモリガンを見遣る。
「ええ、行くわ。中央エリアが混乱してる隙に、さっさとブロスリアンドにおさらばよ」
 モリガンは笑顔のまま告げ、ガウェインの頬にキスを贈った。
 リガとガラハッドにも同様にキスを浴びせる。
「逞しく生きなさいよ、ラグネルちゃん。他人を見る目を養って、悪い男に引っかからないようにしなさいね。それから、あたしの大事な弟たちをよろしく頼むわね」
 最後に彼女はラグネルの頬に口づけた。
「落ち着いたら――そうね、いつか必ず連絡するわ。じゃあね」
 モリガンは笑みを絶やさずに片手を振り、颯爽と身を翻した。
 迷いのない闊達な足取りで丘を下ってゆく。
「モリガン、色々とありがとう!」
 その背に向かってラグネルが叫ぶと、彼女は前を向いたままもう一度ヒラヒラと手を振った。
「あいつは最後までアッサリしてるな。まあ、その方がこっちもしんみりしなくて済むけどな」
 ガラハッドがモリガンの背を見つめながら、煙草を口にくわえる。
 指を鳴らして火を点けると、彼はゆっくりとラグネルたちを顧みた。
「そろそろ俺もお別れだ。モリガンが言ったように、ウサミ邸炎上で中枢部が混乱してるうちに行方を眩ました方がいい。ガウェインたちも、夜明けと同時にブロスリアンドから出ろよ」
 長い黒髪を風に靡かせながら、ガラハッドが穏やかに微笑む。
「ガラハッド、ありがとう。わたし、みんなにはホントに感謝してるわ」
「お互い様だ」
 ラグネルが畏まって告げると、ガラハッドは照れ臭そうに紫煙を吐き出した。
 ラグネルの肩をポンと叩き、彼はガウェインとリガの方へ身を移した。無言でガラハッドを見つめる二人を、彼は両手を広げて優しく抱き寄せる。
「俺は当分地球にいるから、何かあったら呼んでくれ。流石に月や火星は無理だが、地球上ならいつでも跳んでいってやる。いいか、辛くなったら我慢せずに助けを呼ぶんだぞ」
 子供を諭す父親のような口調で述べ、ガラハッドは予告もなしにフッと姿を消した。
 忽然と姿を消したのは、別れの哀しみを長く味わいたくなかったからだろう。
 丘の上にはラグネルとガウェイン、そしてリガだけが取り残された。
 時折、風が丘を吹き抜けてゆく。
 まだ早朝だというのに、夏の風は微かな熱気を孕んでいた。
「わたしたちも出発した方がいいかしら?」
 風に誘われるようにして、ラグネルはガウェインとリガを振り返った。
「そうだな。ATMで資金を調達したら、目的地はどこでも構わないから、とりあえず一番早いシャトルか海底リニアでブロスリアンドを脱出だな」
 ガウェインが端的に今後の予定を話す。ラグネルに異存はなかった。
 だが、ガウェインの腕の中で、リガが血の気の失った顔を上げた。真摯な眼差しが、ラグネルとガウェインに注がれる。
「その前に、墓地に行ってもいいかな? 全部終わったこと、家族に報告したいんだ」
 静かなリガの主張にラグネルとガウェインは顔を見合わせ、次に同時に頷いた。
 リガの家族はアヴィリオンとは無関係だったにも拘わらず、その生命を強奪されてしまったのだ。
 リガの家族を偲び愛する気持ちは、ラグネルにも痛いほど伝わってきた。


     *


 中央エリアの外れを、ラグネルとガウェインは足早に歩いていた。
 二十四時間営業のブロスリアンド中央銀行貸金庫からリガの薬剤類を取り出し、ATMで現金を引き出してきたばかりである。
 今、ラグネルたちが向かっているのは、中央エリアで最も大きい霊園だった。
 そこに、リガの家族が永眠しているのだ。
 一人で墓参したい――というリガの願いを聞き入れ、ラグネルとガウェインは銀行に走ることになったのである。
 手早く用事を済ませ、ラグネルたちは霊園へと急いでいた。
 フレイによって傷つけられたリガを長時間一人にしたくない、というのがラグネルとガウェインの共通の心情だった。
 霊園に辿り着くなり、ガウェインは駆け出した。本当はずっとリガの傍にいたくて、銀行にいる間も落ち着かなかったのだろう。
「待ってよ、ガウェイン!」
 ラグネルは慌ててガウェインを追った。
 イゾルデ家の墓の在処を知っているのか、ガウェインは逡巡することなく墓石群の合間を駆け抜けてゆく。
 彼の足が止まったのは、走り始めて一分ほど経過した頃だった。
「……リガ?」
 ラグネルが追いついた瞬間、ガウェインの口から焦燥の言葉が零れた。
 幽霊にでも遭遇したかのように、ガウェインの表情は凍てついている。
 ガウェインの視線を追い、ラグネルは眉をひそめた。
 イゾルデ家の墓石の前にリガの姿はなかった。
 墓の前には、白百合の花束が一つ捧げられているだけだ。
「リガ? ……リガ!」
 ガウェインの声に狼狽の色が滲む。彼は必死の形相で周囲に首を巡らせた。しかし、どこにもリガの姿は見当たらない。
「リガ……!」
 ガウェインが悲痛な声で呻く。
 リガが既に霊園を去っているのは明白だ。
「あいつ、初めから消える気だったのか」
 ガウェインの顔に苦渋が滲む。
 リガは彼に別れの言葉も告げずに行方を眩ましたのだ。それは、ガウェインにも居場所を教える気はない、という意思表示であり、訣別の証でもあった。
「何でだよ? オレじゃダメなのかよ……。オレじゃおまえの支えにはならないのかよ?」
「そんなことないわ。だって、リガは誰よりもあなたを信頼していたもの!」
 ラグネルはガウェインの腕を掴み、必死に言葉を繰り出した。
 リガが姿を消したのは、死期が迫っているせいだろう。
 苦痛に苛まれながら朽ちてゆく姿をガウェインには見せたくない――そう考えたに違いない。
「だけどリガは、オレに何も告げずに消えたんだぞ。オレを……捨てて行ったんだ」
「なに気弱なこと言ってるのよ!」
 打ちひしがれるガウェインを見ていられず、ラグネルは大声を張り上げた。
 脆く崩れ落ちてしまいそうなガウェインの腕を力一杯引っ張り、自分の方へ向かせる。
 こんな風にリガが姿を消すのも、ガウェインが悲嘆に暮れるのも、ラグネルには耐えられなかった。
「あなた、わたしに言ったじゃない。絶対にリガを死なせない、って。あれは嘘だったの?」
 活を入れるように怒声を放つ。
「嘘じゃない。でも、あいつは薬一つ持たずに姿を消したんだ。死を覚悟してオレの前から消えたんだぞ。オレにどうしろって――」
「しっかりしなさいよ。リガを死なせない方法なら幾らでもあるわ」
 ラグネルの一言に、ガウェインが訝しげに眉根を寄せる。
「わたしがいるわ。わたしがリガを死なせたりしない」
 ラグネルは彼を安堵させるように、ゆっくりと自信に満ちた声音で断言した。
「ドクター・アシュレイの言葉をよーく思い出して。わたしの頭脳には、五人の博士たちの知識が詰まってるのよ。あの奇才五人分の知識が、惜しげもなく搭載されてるの。わたしの中にはマーリンの処方箋も、サイボーグに関する情報も全てインプットされてるのよ」
「……できるのか?」
 虚を衝かれたようにガウェインが目を瞠る。
 ラグネルは大きく頷いた。
「できる――やってみせるわ。博士たちの頭脳のおかげで、わたしはとんでもない科学者になっちゃったみたい。リガの身体の成長だって、もう止めることはないわ。成長するたびに、わたしが新しいボディを造り上げてみせるわよ」
 ラグネルは捲し立てるように言葉を連ねた。
 ガウェインが度肝を抜かれたように口をポカンと開ける。
 しばしの沈黙の後、彼は渇いた唇を舌で潤してから、改めてラグネルを見つめた。
「そうか。記憶を取り戻したあんたは、今じゃ世界一の――いや、宇宙一の天才科学者ってわけか」
「実績ゼロだけどね」
 ラグネルが肩を聳やかすと、ガウェインは口の端を僅かに吊り上げて笑った。
「実績なんて、これから幾らでも作れるさ。……あんた、変な女だとは思ってたけど、ホントに変な女だな」
「失礼ね! ――っと、こんな所でぐずぐずしてる暇はないわ。行くわよ」
 ラグネルはガウェインの暴言を軽く受け流し、その腕を強く引いた。
「行くって、どこに?」
 間抜けなガウェインの質問に、ラグネルは溜息を落とした。
 一度深呼吸してからガウェインに向き直る。
「決まってるじゃない。リガの故郷――グレートブリテンよ。彼はきっと生家に帰ってるわ。だから、迎えに行くのよ。当然でしょ」
 ラグネルは明るい声で告げ、満面の笑顔をガウェインへ贈った。
「……ありがとな」
 珍しく真摯な眼差しをラグネルに向け、ガウェインは朴訥と呟いた。彼なりの精一杯の感謝の気持ちが、ぶっきらぼうな声には確かに含まれていた。
 初めて耳にする彼の感謝の言葉に、ラグネルは胸に温かいものが芽生えるのを感じた。
 心に鮮やかな光が射す。
 この先の道程が眩い光に照らされるような――そんな予感を覚えた。
 ガウェインの手にそっと自分の手を重ね合わせ、ラグネルはもう一度朗らかに微笑んだ。
「三人で行くのよ、新天地へ――」



                               《了》



何とかエンディングを迎えることができました。
最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます(*^▽^*)

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2009.09.20 / Top↑
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