ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「男に見惚れるなんて、バカなおっさんだな!」
 領主が自分の身に起こったことが理解できずに愕然としていると、今度は頭上から豪快な笑い声が降ってきた。
 領主は反射的に天を仰ぎ、眉をひそめた。
 何者かが二階の露台から庭を見下ろしている。
 女装した男にうつつを抜かしている間に、侵入者がもう一人増えてしまったらしい。
「まっ、男でも美人には違いないから、押し倒したくなる気持ちも解るけどな」
 嘲るような言葉を領主に投げつけてきたのは、白金髪の少年だった。
 彼の片手にはサーベルが握られ、菫色の双眸は領主を挑発するように輝いている。
「なっ、貴様……私を愚弄する――」
「遅いよ、ユージン。僕が本当に押し倒されていたら、どうする気だったのさ」
 領主が怒りと羞恥に顔を赤らめるのと同時に、女装の青年が少年を冷ややかに睨みつけた。
「どこまで我慢できるのか見届ける。――で、胸ぐらい触らせてやったのかよ?」
 少年がゲラゲラ笑いながら、手摺を乗り越えて露台から身を投げる。
 鮮やかな身のこなしで庭に着地した少年に、女装青年の盛大な溜息が浴びせられた。
「低俗だね……。仕事が済んだのなら、僕は帰るよ。気分が悪い」
「そんなに怒るなよ。金銀財宝ならしっかりいただいてきたからさ。機嫌直せよ」
 少年が慌てて片手を持ち上げる。彼の手には、はち切れんばかりに膨らんだ麻袋が握られていた。
 それを見て、領主はハッと我に返った。
 ようやく状況が呑み込めた。
 少年と女装青年は財宝目当てに館に押し入ってきた賊であり、領主はまんまと彼らの罠にはまったのだ。
 女装した男におびき出され、金庫のある私室を空にしてしまった……。
 結論に至ると、沸々と憤怒がわき上がってきた。
「貴様ら、私の宝石を盗んだのかっ!? 警護の者どもは一体なにをやってるんだ!」
 領主は口角から唾を飛ばし、顔を真っ赤にして喚いた。
 不逞な盗賊と役立たずの衛兵に対して、猛烈な怒りが込み上げてくる。
「あんたの間抜けな兵士なら、俺がみんな打ちのめしてやったぜ」
 少年がサーベルを軽く振りながら、得意気に告げる。
「黙れ、盗人がっ! 私の蒐集品を返せ。集めるのに苦労したんだぞ。――衛兵ども、賊を引っ捕らえろ!」
「無駄だと思うけど? 外の見張りも、俺とグラディスが気絶させてやったからな」
「うるさいっ。貴様ら、絶対に逃がさないぞ!」
「男が金切り声で喚くなんて、最悪だね」
 女装青年が不快げに眉を寄せる。
 蔑むような視線が領主に注がれた。
「同感。さっさとそいつを黙らせて帰ろうぜ、グラディス」
 領主の罵声にうんざりしたように、少年が相棒にチラと目配せする。
 それを承けて青年は静かに頷き、領主の手首を解放した。
「貴様ら、このギレムの街から無事に出られると思うなよ! 必ず刑に処してやるっ!」
 領主は戒めが解けたことに喜々とし、これまで以上の勢いで叫んだ。
 盗賊如きが領主に歯向かったことを後悔させてやる、と心に誓い、怒りに燃える眼差しで彼らを睨む。
「特に貴様は赦さんぞ。そんなに女の振りが好きなら、娼館に売り渡して――」
 激昂のままに青年に向けて言葉を捲し立てていた領主だが、不意に口を噤んだ。
 目の前で、青年が背後に隠していた片手を素早く振り上げたのだ。
 その手には短剣が握られている。
 恐怖に見開いた領主の双眸に、淡々と剣を閃かせる青年の姿が飛び込んできた。
 直ぐ様、首筋に柄が打ち込まれる。
 刹那、領主の視界は闇に閉ざされた。



 呆気なく地に崩れ落ちた領主を見て、ユージンは称讃の口笛を吹き鳴らした。
「さすがグラディス。一撃必殺だな」
「うるさいよ。――用も済んだし、領主が眠っているうちに帰るよ」
 ユージンに疎ましげな一瞥を与え、相方であるグラディスは颯爽と踵を返してしまう。
「おまえって凄いよな。天才だ。間違いなく、大陸一の魔性の男だ」
 ユージンは慌ててグラディスの後を追い、彼の顔色を窺いながら褒め言葉を連ねた。
 ここで怒りを解いておかなければ、後が怖い。
 二、三日は口をきいてくれないだろう。
 ギレム領主が無類の女好きであることを知り、色仕掛け作戦を計画したのはユージンなのだ。
 そのために女装を強いられ、挙げ句、同性にせまられる羽目になったグラディスの機嫌は頗る悪い。
「そんな讃辞、少しも嬉しくないね」
 グラディスはユージンを見向きもせずに領主館の庭を突き進む。
「いや、おまえは凄い。なんてたって女顔負けの美人だ。おまえなら世界中の王を相手にしても、その全てを虜に出来る! いっそ女に成り済まし、どっかの王を誑かして一国乗っ取ってみないか?」
「――興味ないね。そもそも僕は歴とした男で、当然ながら同性よりも女性の方が好きだ」
 グラディスの唇から溜息が零れる。
 彼は蒼いドレスを忌々しげに一瞥すると、領主館の裏門に手をかけた。
「金輪際、僕は女装なんてしないからね。ちなみに今回の取り分は、僕が七で君が三だよ」
 館を脱出する間際、ユージンの耳に届けられた相棒の声は限りなく冷たいものだった。


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2009.09.22 / Top↑
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