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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Tue
2009.09.22[07:58]
     *


 真夜中だというのに、酒場は溢れんばかりの人でごった返していた。
 酒に酔った男たちが、故郷の想い出や己れの武勇伝を声高に語り合っている。
 宿屋となっている二階からグラディスが降りてきた時、男たちの話し声が一瞬だけ途絶えた。
 ユージンが仕事の成功を祝って果実酒を煽っている間、彼は階上に借りた部屋で化粧を落とし、衣服を改めていたのである。
 グラディスの服は動きやすい簡素なものに変わり、長い髪は後ろで一本に編まれていた。
 腰に携えた武器も、短剣ではなく彼本来の得物である二振りのレイピアになっている。
 しかし、普段の出で立ちに戻った彼だが、その端整な顔に変化はなかった。元々化粧など必要のないほど整った顔立ちをしているのだ。
 階段を降りてきたグラディスを見て、酔漢たちが讃美の口笛を鳴らし、好奇の眼差しを向けたくなるのも無理はない。
 だが彼は、それらを一切無視してユージンの座する卓に歩み寄ってきた。
「呑みすぎだよ」
 卓に並べられた数多の酒杯を見下ろして、グラディスが微かに眉をひそめる。
 彼はユージンの手から十杯目の果実酒を奪い取ると、それを一気に呑み干した。
 空になった杯を置き、ユージンの手を引いて立ち上がらせる。
 心地よい酩酊感を全身に覚えながら、ユージンは従順に腰を上げた。
 酒は得意な方ではない。すぐに酔っぱらってしまう。
 憎たらしいことに、グラディスの方は幾ら呑んでも平気な質だった。
「酔い覚ましに外へ行こうぜ」
「言われなくても、そのつもりだよ。もっとも酔っているのは君だけだけどね」
 卓上に銀貨数枚を放り投げると、グラディスはユージンの手を引きながら出口へ向かって歩き始めた。
 途端、酔っぱらいたちが下品な笑い声を立てる。
「オイ、そっちの別嬪さんは残れよ。一緒に呑もうぜ」
「可愛がってやるから、一晩付き合えよ」
「幾ら払えば遊ばせてくれるんだよ、にーちゃん?」
 次々と飛んでくる野次に、酔っているユージンはゲラゲラと笑い出し、グラディスは涼しい顔でそれを黙殺した。
「悪いけど、アルディス聖王家の宝冠を持ってきても、相棒は売れないな」
 ユージンは酔いの勢いで男たちを笑い飛ばし、グラディスに引きずられるようにして酒場を後にした。
 外気に触れた瞬間、予想外の風の冷たさに身を震わせる。
 北から吹き込んでくる秋風が、ユージンの意識をほんの少しだけ正常に戻してくれた。
「酔っぱらいが……」
 ふと、グラディスの舌打ちが耳を掠める。
「ホント、どうしようもないよな。欲に目が眩んだアホどもは」
 ユージンが意気揚々と応じると、すかさずグラディスの呆れたような視線が飛んできた。
「君のことだよ」
 冷たく言い放ち、グラディスはさっさと歩き始めてしまう。
「どこに行くんだよ?」
 ユージンは少々ムッとしながら、相棒の後を追った。
 酔っぱらっているのは自覚しているが、酒場に屯している男たちと同等に見られるのは至極不愉快だった。
 そんなユージンの心境など意に介した様子もなく、グラディスが立ち止まる。
「風当たりのいい場所だよ」
 グラディスが指差したのは、歓楽街の裏手にある小高い丘だった。



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