ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「――クラリスッ!?」
 背後からマイトレイヤーの叫びが浴びせられる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕の剣の腕は、兄上が誰よりも知っているはずです」
 クラリスは一度足を止めてマイトレイヤーを振り返り、兄を安心させるように微笑んだ。
 それを受けて、マイトレイヤーが苦笑混じりに嘆息する。そのまま形の良い唇が祈りの言葉を紡いだ。
「闘神ルビアのご加護とマイセの恩恵がありますように――」
 細く長い指が宙に舞い、流れるような仕種で精霊文字を描く。
 転瞬、クラリスは自分の身体が暖かいものにフワリと包まれたのを感じた。残念ながらクラリスには精霊の類は全く視えないが、おそらく兄が己の使役する精霊にクラリスのことを護るように命を下したのだろう。
 クラリスは兄の心遣いに胸中で感謝しながら、前方へと視線を戻した。
 ラザァがセリエを庇いながら巧みに攻撃呪文を繰り出している。
 シンシリアはいつもの冷笑を口の端に刻みながら、神速の如き速さで剣を操っていた。
 クラリスは襲い来る偽神官に向かって、左のレイピアを一閃させた。短刀を持つ神官の腕を斬りつけ、得物を弾き飛ばす。敵が怯んだ隙に更に右のレイピアで太股を裂いた。
 血飛沫が舞い、男が血に頽れる。
 久々に鼻腔を掠めた血の臭いは、クラリスの心を解き放つ。『無力な少年』という枷を外して、思う存分剣と剣のぶつかり合いを愉しむことに決めた。
 別の男が横から飛びかかってくる。だが、クラリスに触れる寸前に彼は何かに衝突したかのように後方に跳ね飛ばされ、地に叩きつけられた。
 どうやら、マイトレイヤーが遣わしくれた精霊のおかげでクラリスの身はしっかりと護られているらしい。
 地面から身を起こした男が鋭い眼差しでクラリスを見据え、唇を動かす。
 何かの呪文を唱えているようだが、それは風に乗って運ばれてきたマイトレイヤーに声によって遮られた。
 マイトレイヤーの涼やかな声が呪を紡ぐ。
 すると不思議なことに敵の男の音声がフッと途絶えた。突如として音を成さなくなった声に、男が恟然と目を見開く。
 魔術についての知識に乏しいクラリスだが、兄の魔法が男から呪文を完成させるための声を奪ったらしいことは察せられた。
 ――兄上の魔法が効いている限り、あっちは魔法攻撃はできない、と。
 素早く状況を把握して、クラリスは喜びに唇をつり上げた。
 魔法の使えない神官など少しも怖くはない。
 剣の闘いなら自分の方が上だ。剣術だけならシンシリアたちにも劣らないとさえ思っている。
 クラリスは偽神官たちが魔法を封じられたのをいいことに、二本のレイピアを奔放に操り、次々と敵を斃していった。
 しかし、神官たちも馬鹿ではない。クラリスが見かけ通りのか弱い少年ではないことを悟ると、仲間内で目配せし合い、一斉にクラリスを狙ってきたのである。
 複数の短刀が同時に攻撃を仕掛けてくる。
 クラリスは刀身で敵の刃を受け流し、身の軽さを活かして器用に神官たちを躱し続けた。
 ――が、キリがない。神官たちの方が圧倒的に数が多いのだ。
 いつの間にか右手のレイピアは弾き飛ばされ、左の剣だけで応戦していた。
 敵の太い短刀がクラリスの肌を裂く。
「――つっ……!」
 痛みに怯んだ隙に、別の神官が曲刀を翳し、眼前に迫っていた。
 神官が凶悪な刃物を振り下ろす。
 クラリスがハッと息を呑んだ刹那、神官が唐突に白目を剥き、昏倒した。
 反射的に倒れてきた男の身体をよける。
 男がドサッと豪快に地に倒れ伏した後には、血液の付着した巨石を両手で掲げるセリエの姿があった。
 その勇ましい姿を見て、クラリスはギョッと目を瞠った。
 彼女は情け容赦なく神官の後頭部を石で殴りつけたらしい。
「ちょっ……王女様がそんなことするなよっ!!」
 クラリスは慌ててセリエの手から重そうな石を引き剥がすと、彼女の手首を掴み、混戦している場所から抜け出した。
 こんな時でも気丈な――いや、それを通り越して剛胆すぎるお姫様に拍手を贈りたいくらいだ。セリエには己が超大国の姫君であることを失念してしまう悪癖があるらしい……。
 混乱地帯から抜け出してみると、偽神官たちの数は三分の一ほどに減っていた。
 シンシリアとラザァで大半を片付けてしまったのだろう。
 シンシリアは位を剥奪されたとはいえ最近までは歴とした魔法剣士であったし、ラザァにいたっては現役である。
 アダーシャが誇る華麗で冷徹な武装魔術集団――その凄さを改めて思い知らされた気がした。
 この分だと手下を失ったデメオラもすぐに降伏するだろう。
 そうクラリスが楽観視しかけた時、
「――シンッッ!」
 マイトレイヤーの切羽詰まった叫びが響いた。


いつも遊びに来て下さり、ありがとうございます♪
更新ペースは頗る遅いですが(汗)あと5話くらいで終幕を迎えられると思いますので、気長にお付き合い下さいませ~!

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2009.09.22 / Top↑
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