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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.09.23[08:31]
 隣国シアとの境界線――ハイトスの丘。
 丘の頂にはアダーシャとシア、両国の役人が駐在する関所が設けられている。
 グラディスは酔っぱらいのユージンに構わずに颯爽と丘を登り、その中腹でようやく腰を降ろした。
 ユージンは顔を上気させながら相棒に追いつくと、彼の隣に寝転んだ。
 自然と視界に天が広がる。夜空には煌めく星辰が散りばめられていた。
「おっ、信じられないくらい星が綺麗だな」
「ここはシアに近いから、星神の機嫌もいいかのかもしれないね」
 隣国シアは小さな国だが、星神セラの加護を受けていることで有名だった。
 全ての民がセラを信仰している。
 熱狂的星神信者の集う聖地――それがシアという国だ。
「――で、どうするよ?」
 ユージンは、寝返りを打ちながら唐突に切り出した。
 酔いに充血した目でグラディスの顔を見上げると、友人からは冷静極まりない眼差しが返ってきた。
「話が全く見えないね」
「これからどうするか、ってことだよ。国内の主要都市も殆ど制覇したし、この街も明日には出なきゃならないだろ」
 ユージンは緩慢な動作で上体を引き起こし、意見を求めて相棒の顔を覗き込んだ。
 グラディスと出逢ったのは三年前――王都アダーシャでの出来事だった。
 ユージンがまだ盗賊に成り立ての頃、盗みに入った貴族の館でグラディスと鉢合わせしてしまったのである。
 その館には稀少価値のある宝石があり、二人の狙いは奇しくも同一のそれだった。
 当然「俺が先に見つけた」「僕の獲物だ」と口論になった。
 しばし不毛な言い争いを繰り返した後、宝石を別の街で換金して儲けを折半する――という結論に辿り着いた二人は、遠くの街まで旅を共にすることとなった。
 その道中、妙に気が合ってしまい、今に至る。
 三年間、二人でアダーシャ国内を転々とし、数々の盗みを働いてきた。
 生きる術として盗賊業を選んだが、やはり窃盗は犯罪だし、捕まれば罰を受けることになる。
 このまま国内で仕事を続ければ、いずれ面も割れるだろう。
 アダーシャで仕事をするのも潮時だ。
 ユージンにはこの国に執着する理由はないし、いつか必ず成し遂げねばならないことがある。
 物心ついた時から十八歳になった今日まで、ずっと胸に秘めてきた強い憎悪――ある人物に復讐するためだけにユージンは生きてきたといっても過言ではない。
 だが、それを成就させるには、もっと世界を知り、もっと物事を学ぶ必要があった。
 復讐相手は強大な存在であり、今の自分ではその足元にも及ばないのだ。
 憎き敵に繋がる人脈や地位を得るまでは、どうしても資金が必要になる。そのために盗賊稼業を選んだのだ。纏まった金さえあれば、闇市で貴族の地位を買い取ることだって可能なのだから……。
 潤沢な資金を得るまでは、到底盗みは止められない。
 とりあえず、目先の問題は相棒だ。
 信頼のおける相方がいるのといないのでは、仕事の大きさにかなりの影響が出てしまう。
 三つ年上なだけのグラディスだが、その頭に詰まっている知識はユージンより遙かに多い。彼は、他国の情勢や世相などに驚くほど精通しているのだ。
 決して手放したくはない相棒だ。
 しかし、彼にはユージンに付き従う義理も義務もない。
「アダーシャを出よう、ってことか……。いいよ、つき合ってあげても」
 しばし思案するように眉根を寄せた後、グラディスは囁くように告げた。
「本当か?」
「ユージンと違って、僕には将来の夢とか展望とか――そんなものは何一つないからね。いつ死んでもいい、と怠惰な考えを持っているくらいだ」
「何だよ、それ? 年寄りみたいなこと言ってんなよ」
「僕はね、十六の時に死んだ人間なんだ。死人が未来に希望を持ってもしょうがないよ」
「俺、おまえのそういう悲観的な考え、大嫌い」
 ユージンはしかめっ面をグラディスに向けた。
 時折、この相棒はユージンには理解できぬ言葉を口にする。
 問い詰めても更に不可解な返答をされるだけなので敢えて追及はしないが、やはり釈然としない。
「僕も嫌いだよ」
 口の端に微笑を刻むグラディスを見て、ユージンは大仰に肩を竦めてみせた。
「……変な奴だな。まっ、とにかくおまえが一緒なら心強い。――で、どの国に行く?」
 溜息一つ落としてから、ユージンは会話を修正した。
 直後、グラディスの双眸がスッと細められる。
 鋭利な輝きを灯した瞳が、素早く周囲を探った。
「ユージン、誰かこっちに来るよ」
「あ? 本当だ。何だよ、あの集団?」
 ユージンはグラディスの視線を追い、その先にあるものを確認して首を捻った。
 闇夜の中を男たちの一団が歩いている。
 どの男も皆、腰や背中に武器を携えていた。



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