ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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一瞬『領主の追っ手か?』と気を引き締めたが、それはユージンの杞憂で終わった。
 男たちはユージンたちには目もくれずに、傍を横切って行ったのだ。
「もうすぐ星神の国だな」
「だが、王都セラシアには程遠い」
「国境を越えたら一秒たりとも気を抜くな。どこに敵となる者が潜んでいるか解らん」
 男たちの会話の端々が耳を掠め、あっという間に遠ざかってゆく。
 ユージンは怪訝な眼差しで男たちの背中を見送った。
 彼らは隣国シアを目指しているようだ。
 この時期、シアからアダーシャへ入ってくる集団は多いが、その逆は稀だった。
 秋から冬にかけて、寒さの厳しくなる北国を目指す者は滅多にいない。
「へえ、彼らシアに行くのか。勇気があるっていうか、無謀な自殺行為としか思えないね」
 グラディスが呆れたような呟きを放つ。
 ユージンは問い質す視線を彼に流した。
「シアで何かあるのか?」
「あそこは今、星戦(せいせん)の真っ最中なんだよ」
「は? せいせんって何だ?」
「星を巡る戦いのことだよ」
 目をしばたたかせるユージンに、グラディスは『そんなことも知らないのか』と言わんばかりに大きく肩を聳やかした。
「一ヶ月前に星が墜ち、国王ギュネイ・セラシアが亡くなったんだよ。彼の国葬の後、星戦の開始がセラ大神殿から正式に布告され、シア全土はお祭り騒ぎ――」
「死んだ……シアの国王が?」
 何気なくもたらされた事実に、ユージンは愕然とした。思わず声が裏返ってしまう。

 ギュネイ・セラシア。
 星神の都を統べる王。

 その突然の死にユージンは激しい衝撃を受け、また動揺していた。
 幼い頃から尽きることのない憎悪を抱いていた相手――それがギュネイ・セラシアという男だったのである。
 ――あの男が……死んだ?
 俄には信じられない。
 しかし、シアで星戦が起こっているのならば、それは間違いなく先王の死を意味していた。
 ギュネイは最早この世には存在していない。
 ユージンが復讐を果たす前に、呆気なく死んでしまったのだ。
「先王の死から一ヶ月経つけれど、新王はまだ決まっていないらしいよ。――おや、大丈夫かい、ユージン? 顔色が悪いよ。酔いが復活したのかな」
 ふと、グラディスが心配そうにユージンの顔を覗き込んでくる。
 傍目にも判るほど狼狽しているらしい己に気づき、ユージンは慌ててかぶりを振った。
「何でもない。……シアでは、本当に星戦が始まってるのか?」
 胸の奥から迫り上がってくる怒りを必死に抑え、ユージンは掠れた声で質問を繰り出した。
 両の拳を強く握り締め、強引に口惜しさを封じ込める。
「そうみたいだよ。このアダーシャも奇異な国だけれど、隣のシアはそれを上回るほど奇妙なお国柄だ。何せ、星神セラに愛されている国だからね。まあ、今更僕が語るまでもなく、君だって知っているだろうけど」
 グラディスの言葉に、ユージンは努めて冷静を装いながら頷いた。
 大陸最古の歴史を誇る千年王国アダーシャは、創世神マイセを崇め祀る国だ。
 国を支配するのは、『アルディス聖王家』と呼ばれるマイセ神の血を受け継ぐ貴き一族のみ。
 聖王家以外の者が玉座に就くことは、決して赦されない。
 同じ一族による統治が建国時から連綿と続いていることが、アダーシャ最大の特徴と言えるだろう。
 アダーシャ国民のマイセ信仰もかなり熱いものがあるが、隣のシアはそれが霞んで見えるほど星神に対する崇拝の念と依存度が高いのだ。
「シア国民のセラに対する熱狂的な信仰心は異様だとしか思えないね。シアには王朝制度がない。世襲による王位継承が認められない代わりに存在するのが、《星》と呼ばれる貴石による国王の選定だ」
「セラが人間の女に生ませた子供――初代シア国王に与えたっていう、光り輝く奇妙な石のことだろ」
 ユージンは記憶の棚からシア関連の情報を引っ張り出してきて、渋面で相槌を打った。
 グラディスには及ばないが、隣国に関する知識はユージンの頭にも多少は詰まっている。
「そう。星神の分身ともいえる輝石は、今でもセラ大神殿に祀られているって話だよ。シアの王はセラによって選ばれる。王の資質を備えた者が触れると、摩訶不思議なことに星は発光するらしいね」
「王が死す時に星は輝きを失い、新王が誕生する際に再び輝きを取り戻すって――そう聞いたことがあるな」
「国王に王たる資格が無くなったとセラが判断を下した場合にも、星は輝きを失うそうだよ。その場合、星が墜ちると同時に王も生命を失うんだってさ」
「王と星は一心同体――星は国王の心臓そのものってわけか」
「おかしな話だよね。たった一つの石で王の生死が左右され、国の未来にまで関わってくるんだからさ」
 グラディスが星空を見上げ、苦笑を洩らす。
「僕には理解できなくても、それがシアにおける現実なんだろうね。王が死ぬと星は輝きを失い、それに再び光を灯した者がセラに選ばれし新王と認められる。新王が決定するまでの国王不在期間を《星戦》と呼ぶ――と」
「物騒だよな、王を選定するのに戦なんてよ」
「実際、物騒なんだよ。シア国民が王として認めるのは、星を輝かす力のある人間だけなんだ。別にシアの民じゃなくてもいい。王族や貴族だけじゃなく、一般庶民が王になることも夢じゃない国――それがシアだ」
「大陸で唯一、名もない民が王冠を戴くことのできる国、か……。さっきの男どもは王位目当てにシア入りを決意したってわけか」
「多分ね。星さえ輝かすことができれば、悪党でも罪人でも玉座というお宝を手に入れられるんだ。だから星戦が始まると、野心家たちが大陸各地からシアに集まってくる」
 グラディスが淡々と述べるのを、ユージンは頷きながら聞いていた。
 ――よく考えたら、罪人でも王になれるっていうのは凄いことだよな。
 シアの玉座に就くためには、《星》とやらを輝かせて、自分がセラに選ばれた真王であることを民に認めさせればいいだけなのだ。
 そこまで思考を巡らせて、ユージンはハッとした。
 頭の中で何かが閃いた。
 ギュネイが死んだことで目標を失った気がしていたが、進むべき道はちゃんと目の前に拓けていた。
「なあ、グラディス、誰にでも可能性はあるんだよな? 泥棒でも玉座に座れるんだよな。例えば俺が星に光を灯すことができれば、俺はシアの国王になれるってことだよな?」
 ユージンは思いついた妙案に心を昂揚させ、野望に満ちた眼差しをグラディスに向けた。
「もちろん可能性はあるよ。ギュネイ先王だって、遙か南にあるカレリア公国の出身で、傭兵か何かをやっていたはずだよ」
「そうか。ギュネイも他国民で、しかも平民の出身だったのか!」
 ユージンは新たな発見にますます瞳を輝かせた。
 ギュネイにできて、自分にできないことはない。
 何故だか、妙な自信が湧いてきた。
「どうしたのさ、そんなに興奮して? 君に王たる資質があれば、セラに選ばれるだろうけど……。待てよ、まさか君――」
 不意にグラディスが口ごもる。
 物凄い勢いでユージンに向けられた顔には、驚愕の色が浮かんでいた。
「その、まさか、だ。今、決めた。泥棒は今夜限りで廃業。俺は王になる!」
 ユージンは意気揚々と宣言し、満面の笑みを友人に贈った。



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2009.09.23 / Top↑
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