ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 賑やかな通りを抜けると、関所のあるハイトスの丘がすぐ傍に見えた。
 丘の頂上には両国の関所が設けられている。
「へえ、あの丘の向こうが千年王国アダーシャか。行ってみたいな」
 レイジィは丘を眺めながら素直に心情を吐露した。
 すかさずアナンが眉をひそめる。
「私たちは遊びに来たのではなく、新王候補を捜しに来たのですわよ」
「目的はちゃんと把握してるから心配しないで。でも――本当に見つかると思う?」
 レイジィとアナンは、セラ大神殿の巫女なのだ。
 しかも、ただの巫女ではない。
 星神セラから贈られた《星》を護るために選ばれた星守人(セリルダ)なのである。
 シアでは、身体のどこかに八芒星が刻印された赤ん坊が生まれることがある。
 この国では、それは神の証――星刻とされる。
 星刻を授かってこの世に誕生した人間こそが、セラに選ばれし星守人なのだ。
 星守人は圧倒的に女性が多い。
 その理由は定かではないが、遣えるセラが男神だからではないか、と漠然と考えられていた。
 星守人はセラに生涯を捧げる巫女なのだ。
 それゆえに、一生純潔を守らなければならない、という掟まで課せられていた。
 星刻を持つ赤子は、生まれてすぐにセラ大神殿へと託される。
 そこで星守人としての教育を受け、国王の星の警護に当たるのである。
 星守人が神殿から外界へ出ることは滅多にない。
 大抵の星守人は神殿の中で一生涯を終えるものなのだ。
 今現在、レイジィとアナンがこうして外界に赴いているのは異例のことだった。
「見つかりますわ。いえ、見つけなければならないのです。そのために、私たち自らが出向いているのですから」
 アナンが芳しくない表情で告げる。
 先王ギュネイ・セラシアが逝去して、既に一ヶ月が過ぎていた。
 星戦が開始されてからというもの、大神殿の前には『我こそが次代の王だ』と意気込んでいる者たちが長蛇の列を作っている。
 しかし、その中に王たる資質を備えた者はいなかった……。
 王の星は輝きを灯すことなく、未だ死んだように眠りに就いている。
 惨々たる事態を憂い、星守人を束ねる星守姫(セリシス)ファ・ルシアは一つの決断を下した。
 星を感じ取ることのできる星守人を外界へ出し、自分たちの手で王気を宿す人間を捜すことを。
 そうして十日前、新王候補を求めて星守人たちは国内各地に散らばった。
 レイジィとアナンは南方を任され、現在最南端の街ハイトスにいるのである。
 残念なことに王都からの道中、星刻が反応を示す者はいなかった。
「色んな街を観て歩けるのは嬉しいけど、一人くらい候補が見つかってくれないと困るわね。これまでの星戦で、こんなに長く新王が決まらなかったことってなかったんでしょ?」
「私にとっても初めての星戦なので詳しいことは解りませんが、記録書によると一ヶ月間も王が不在というのは珍しいようですわ」
「あれ、アナンも星戦は初めてなの?」
 レイジィは初めて知る事実に目をしばたたいた。
 アナンは自分より六つ年上の二十二歳。二十年も星守人をやっているなら一度くらい星戦を経験しているはずだ、と勝手に思い込んでいたのだ。
「ええ。今、大神殿にいる星守人にとっては初めての星戦です。最年長のファ・ルシアでも二十八歳。ギュネイ先王の即位は三十年前のことですからね。先王の即位に立ち会った星守人は一人も残ってはいないのですわ。先の星守姫ミラ・ディータ様も、私が幼い頃に亡くなってしまわれましたし……」
「ああ、そういえばルシアって先王の娘だったわよね。即位してから生まれたお姫様なんだから、前の星戦を経験してなくて当然か」
 思い出したようにレイジィが相槌を打つと、アナンの顔に苦い笑みが広がった。
「先の星戦がいつ起こったかも知らないなんて、勉強不足ですわよ」
「いいの。好きで星守人に生まれたわけじゃないもん。たまたま星刻があっただけよ」
 レイジィは己の右手に視線を落とし、唇を尖らせた。
 掌には八つの頂点を持つ星がしっかりと刻印されている。
 これがレイジィにとっての重い枷――セラの呪縛だった。
「あたし、星守人なんてさっさと辞めたいの。このまま逃げ出しちゃおうかな?」
「レイジィ、それ以上の発言はお止しなさい」
 アナンの眉間にぐっと皺が寄る。
 だが、レイジィは構わずに先を続けた。
「アナンと二人きりだから告白してるの。本当はアナンだって外に出たいんでしょう?」
「私は……外では暮らしてはゆけないのです。この神の眼がある限り」
 アナンの顔に淋しげな微笑が浮かぶ。
 目の不自由な彼女は、慣れた場所でなければ暮らせない、と初めから決めつけているのだ。
「何事も諦めちゃ駄目よ。あたしね、この星戦が終わったら星守人を辞めようと思うの。あんな辛気くさい神殿で一生を終えるなんて馬鹿げてるわ。間違いなく、人生最大の損よ。あたしはもっと色んな世界を見たいし、恋だってしたい。因習だか何だか知らないけど、恋愛を禁止するなんて随分とふざげてるじゃない」
「私たちはセラに遣える巫女ですわよ」
「でも、ずっと処女のままなんて嫌なの。あたしにとって星刻は呪いも同然よ。聖なる印なんかじゃない。あたしを星守の塔に縛りつけておくだけの邪魔な存在なの。あたしはセラから離れて、自由に生きたいのよ」
「その気持ちは解らなくもありませんが、今は新王のことだけを考えてほしいですわね」
「新王捜しについては大賛成よ。早く新王を見つけて、さっさと即位させたら、窮屈な神殿とは永遠におさらばよ」
「そのような恐ろしい考えは――」
「止めても無駄よ。ずっと前から決めてたの。だから、アナンも星戦が終わるまでには心を決めておいて。星守人として神殿で一生を終えるか、あたしと外の世界へ旅立つのか」
「そ、そんな急に言われましても……」
 アナンは困惑したように口ごもる。
 しかし、彼女はレイジィを非難したりはしなかった。アナンも心のどこかで星守人として生きることに疑問を感じているのだろう。
「アナンはセラを憎んだことはないの? その神の眼がなければ、視力を奪われることはなかったかもしれないのよ」
「憎んだことはありませんが、この目が普通ならば、と考えたことはありますわ。私は生まれてからずっと暗闇しか知りませんもの。自分の顔さえ知らないのです。それについては、とても残念に思っていますわ。ですが、これは私に定められた運命なのです」
「そうやってすぐに諦めないでよ。セラの呪縛を解けば目が見えるようになるかもしれない、って前向きに考えたことないの?」
「見えるようになるという確証があれば、前向きに検討したいですわね」
「ああもう、じれったいわね。――とにかく、さっき言ったことは真剣に考えておいてね」
 レイジィは微かな苛立ちを込めてアナンを見据えた。
 神殿を捨て、外に飛び出すことに不安はない。
 ただ一つ心配なのが、アナンのことだった。
 レイジィはアナンを姉のように慕い、また彼女に妹のように可愛がられて育ってきたのだ。
 その彼女を陰気な神殿に残してゆくことだけが気懸かりだ。
 できることなら、一緒に外の世界に連れ出してしまいたい。
「とりあえず、今は候補捜しに全力を注がないとね」
 レイジィは気を取り直すようにブンブンと頭を振った。
 レイジィがとやかく言わなくても、アナンはいずれ自ずと答えを導き出すだろう。


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2009.09.24 / Top↑
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