ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「あれも玉座を狙う一団かしら?」
 ハイトスの丘を半分ほど登ったところで、レイジィはふと足を止めた。
 頂上の関所から男たちが出てきたのだ。
 星戦の噂を聞きつけてやって来た可能性は高い。
 大人数でゾロゾロと連れ立っているのならば尚更だ。星を目当てにシアを訪れる外国人は、競争相手の存在を畏れているのか用心棒を連れてくることが多いのである。
「――七、八人ですわね」
 アナンが男たちのいる方角を真っ直ぐに見つめる。
『本当は見えてるんじゃない?』と、レイジィが疑いたくなるほど彼女の感覚は鋭いのだ。
「全部で八人よ」
 レイジィが正確な数を教えた直後、思いがけずアナンの身体が大きく震えた。
「まあ、大変。星を感じますわ」
「えっ、あいつらの中なの?」
 レイジィは慌てて己の右手と男たちを交互に見比べた。
 しかし、特別何も感じないし、星刻(せいこく)も反応を示していない。
 星守人として未熟なせいだろう。神の眼イル・アナンが星を感じたのならば、十中八九《当たり》なのだから。
「誰とは特定できませんわ。ですが、確かに星の輝きを感じるのです」
 アナンの声に喜色が滲む。
 見ると、彼女の左目が燐光を発していた。
 眼精に浮かび上がった星刻が黄金の光を放っている。
 接近しつつある星の気配に共鳴しているのだ。
 彼女は、星の行方を追って忙しなく周囲に首を巡らせ始めた。
 そうしているうちに、男たちが間近に迫ってくる。
「ようやくシアに着いたな」
「セラ大神殿がある王都まで、まだ十日ほど旅を続けねばならんがな」
「王冠を狙ってる奴がどれだけいるか知らんが、邪魔者は全て排除してくれよ」
 八人の中で最も身なりのいい男が、厳しい声音で告げる。
 彼は宝石の散りばめられた豪華な衣装を纏っていた。どこかの貴族なのだろう。彼が玉座を狙う主人で、他は護衛らしい。
 レイジィは、一団が通り過ぎてゆく際にアナンにチラと視線を流した。
 アナンは男たちには見向きもしない。
 あの中に、星の輝きを持つ者は存在しないということだ。
「俺以外に王に相応しい者は現れんだろう。他の者は屑だ。容赦なく斬り捨ててくれよ」
 貴族男が不遜な口調で告げる。
 その発言にレイジィは溜息をつき、それから意を決して男の背に声をかけた。
「ねえ、ここで引き返した方がいいわよ」
「何だ、この小娘は?」
 護衛の一人が厳つい顔で振り返る。
 彼に釣られて、他の男たちも足を止めた。
 幾対もの眼差しがレイジィに注がれる。
「王都を目指す必要はないわ。あなたたちは王になれないもの。時間の無駄よ」
「聞き捨てならん言葉だな。俺を侮辱しているのか?」
 貴族男が凄んでみせるが、レイジィは臆することなく彼の視線を受け止めた。
「違うわよ。親切心から教えてあげただけ。あなたは王にはなれ――」
「レ、レイジィ、お止しなさい!」
 アナンが慌てて制止の声をあげる。
 だが、レイジィはあっさりとそれを無視した。
「あたしたちはセラ大神殿の星守人よ。星の番人が指摘するんだから間違いないの。あなたから星の輝きは少しも感じられないわ」
「貴様らが星守人だと?」
 貴族の双眸が疑心を表すようにスッと細められるのを見て、レイジィは反射的に右手を突き出していた。
 星刻を目の当たりにすれば、無知な外国人でもレイジィたちが正真正銘の星守人であることを理解するだろう。
 案の定、貴族はレイジィの掌をしげしげと眺め、驚きに大きく息を呑んだ。
「本物の星守人だと? それが、この俺が王には相応しくないと言うのか? 馬鹿な。そんなことは実際に星に触れてみなければ判らないだろう!」
 貴族の顔が見る見る真っ赤に染まってゆく。
 王都に行かずして否定されたことが、余ほど頭にきたのだろう。
 だが、事実なのだから仕方がない。
 無益な戦に飛び込んで生命を落とすよりも、今ここで引き返した方が男のためでもある。
「あなたの裡に星は無い。だから、国王の星に触れたって輝きを灯すことはできないわ」
「貴様、星守人を騙って、俺を玉座から遠ざけようとしているのではないかっ!」
 再び王にはなれないと断言されて、貴族の自尊心はますます傷ついたようだ。
 彼はとんでもない邪推を披露し、レイジィを罵倒した。
「あたしは本物の星守人よ」
「星守人だと言い張るのならば、国王の星を見せてみろ」
「呆れた。馬鹿じゃないの。星があるのはセラ大神殿《星守の塔》の最上階よ。そんなことも知らずに王になろうだなんて、信じられないわね。勉強してから出直して来なさいよ」
「まだ俺を愚弄するのか、小娘めっ! おい、おまえたち、この生意気な小娘から星を奪い取れ。星守人なら必ず持っているはずだ」
 貴族は唾を撒き散らしながら護衛に命じた。
 男たちが一斉に武器を手にする。
「呆れを通り越して、頭にくる連中ね」
 レイジィは苛立ちに眉を跳ね上げた。
 この国で、星守人が蔑ろにされることなど絶対に有り得ない。
 星守人であることに不満を抱いているレイジィだが、こんな屈辱を受けることは許せなかった。
 星守人であることを抜きにしても、阿呆面の貴族は若い女だというだけで自分を見下し、軽んじているのだ。
「さあ、早く小娘から星を奪い取れ!」
 貴族が意気揚々と声を張り上げる。
「勘違いも甚だしいわね。星なんて持ってないし、さっきから小娘小娘ってうるさいのよ! いいわよ、受けて立ってやろうじゃないの」
 レイジィは挑戦的な眼差しで男たちを睨めつけ、右手を背に回した。
 背後でアナンの悲鳴があがったが、構わずに剣の柄を握り締める。
 装飾の一つを指の腹で押すと、特殊な鞘が一瞬にして開き、刀身を解放した。
 レイジィは素早く剣を構えると、俊敏に地を蹴った。



      「旅立ち」へ続く



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2009.09.24 / Top↑
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