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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Fri
2009.09.25[08:47]
旅立ち



 降り注ぐ陽光が、下草に覆われた丘を照らしている。
 ユージンは眩しさに目を細めながら、潜り抜けてきたばかりの関所を振り返った。
「難無く関所通過、っと」
 闇市で入手した通行手形の威力は絶大だった。
 アダーシャとシア、両国の役人は宝石商という偽りの肩書きを信じ、すんなりシアへ入国することを許可してくれたのだ。
「本当なら、夜明けと同時に出発するはずだったんだけどね」
 グラディスがユージンを横目で一瞥し、サラリと嫌味を放つ。
 昨夜に引き続き、友人の機嫌は芳しくない。
 理由は至極明快――ユージンが体内に蓄積された酒精に負け、昼近くまで爆睡していたからである。
 充分な睡眠をとったおかげで二日酔いにはならなかったが、それと引き換えに相棒の信頼を少しばかり失ってしまったらしい。
「いつまでも根に持つなよ。無事にシアに入れたんだから、それでいいだろ」
 ギレム領主の追っ手に捕まることもなくアダーシャを抜け出せたのだ。この際、細かいことは忘れてほしかった。
 だが、グラディスはユージンの声など聞こえなかったかのようにそっぽを向いている。
 ユージンは小さく溜息をつき、初めて訪れるシアという国を眺めた。
 国境を越えたとはいえ、ハイトスの丘からの眺めはギレムと大差ない。
 ここが異国だという実感は湧かなかった。
 故郷と変わり映えしない街並みから丘の中腹へと視線を引き上げると、そこに人の群がりを発見した。
 時折、怒声が響き渡る。
 何やら諍いが生じているらしい。
「国境を越えれば戦場、か。早速、もめ事みたいだぜ」
 ユージンが好奇に満ちた声音で告げると、ようやくグラディスの顔が動いた。
「あれは……僕たちの前に関所を通過した、悪趣味な貴族だね」
 グラディスの柳眉が不快げにひそめられる。
 友人の心中を察して、ユージンは口の端を歪めて笑った。
 自分たちの前にいた一団の主格らしき男は、呆れるくらい宝石の散りばめられた衣装を纏っていたのである。貴族嫌いのグラディスでなくても、あの出で立ちには失笑してしまう。私は貴族です、どうぞ襲って下さい――と大々的に宣伝しているようなものだ。
「あんな下品な男が同じアダーシャの人間で、しかも貴族だなんて吐き気がするね」
「確かにな。――おっ、始まったみたいだぜ」
 ユージンが相槌を打った瞬間、貴族の用心棒たちが一斉に武器を手にし、言い争っていた相手に躍りかかったのである。
「もしかして、あれは多勢に無勢なのかな?」
 グラディスの疑問を承けて、ユージンは改めて集団を注視した。
 よくよく観察すると、貴族と用心棒の他にその場にいるのは二人。しかも、ほっそりとした影から女性であることが窺える。
 そのうちの一人――小柄な方が剣を取り、果敢に男たちと闘っていた。
 驚くべきことに彼女が操る武器は、自身の背丈ほどもある大剣だった。
 女は俊敏な動作で用心棒たちの攻撃を躱わし、神業のような速さで敵に剣を打ち込んでゆく。
 あっという間に、二人の男が地に崩れ落ちた。
「すげぇ……! なんか無茶苦茶な女がいるぜ」
「一人で八人を相手にする無鉄砲さは、君に通じるものがあるね。それにしても、大勢で女性を取り囲むなんて卑怯な連中だ」
「面白そうだから行ってみようぜ。あのアホ貴族はおまえにくれてやるからさ!」
 言い終えるなりユージンは駆け出していた。
 女が何者かは知らないが、一人で敵に立ち向かう豪胆さが気に入った。
 同時に、女性相手に多数で襲いかかる男たちの卑劣さに、猛然と怒りが湧いてきた。



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