FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Fri
2009.09.25[08:52]
「大人しく星を寄越せ、小娘っ!」
 貴族の甲高い叫びが丘一帯に響き渡る。
「ふざけんじゃないわよ、この卑怯者!」
 それに対して、小柄な女が三人目の用心棒の腹部に剣の柄を叩き込みながら叫び返した。
 諍いの場に到着したユージンは、新たな驚愕に見舞われた。
 歪曲した大剣を操る人物が、自分より若い少女にしか見えなかったからである。
 まだあどけなさが残る少女の顔を目にした途端、ユージンは反射的にサーベルを抜き取っていた。
 そこへ――
「どなたか存じ上げませんが、どうか助けてあげて下さい!」
 褐色の肌の女性が黒髪を靡かせて駆け寄ってきた。少女の連れだ。
「解ってるって。あの貴族どもをブチのめせばいいんだろ」
 ユージンが意気揚々と応じると、女は何故か慌てたように首をブンブンと振った。
「違います。あの者たちを助けていただきたいのです。レイジィを止めて下さい」
「――は?」
 ユージンは戸惑いを隠せずに眉根を寄せた。
 傍らに立つグラディスを見遣るが、彼も困惑したように首を傾げている。
 レイジィというのが剣を操る少女の名前なのだろう。
 しかし、必死に闘っている彼女を止めて貴族たちを助けてくれ、とは一体どういうことなのだろうか――合点がゆかない。
「レイジィは闘うことが大好きな、厄介な娘なのです。あの子が本気になる前に止めて下さい。お願いですわ」
 女は気もそぞろに早口で述べる。深い緑色の双眸は不安げに揺らめいていた。
「イマイチ理解できないけど――とにかく男どもを追っ払えばいいんだよな」
 ユージンは理解不能な女の言葉を無視することに決め、グラディスに視線を流した。
 グラディスが軽く頷き、地を蹴る。
 普段は二刀流の彼だが、眼前の男たち相手に双剣を抜くまでもないと判断したのか、その手に構えられたレイピアは一振りだけだった。
 ユージンがグラディスに続いて駆け出した時には、既に男たちの数は半減していた。
 残るは、貴族と三人の用心棒のみ。
「貴様ら、俺の邪魔をするなっ!」
 ユージンたちの介入に気づいた貴族が、憤怒の形相で剣を抜き払う。
「寄ってたかって女を虐めるなんて情けないぜ、おっさん。――それじゃグラディス、アホは任せたからな」
 ユージンは怒りに頬を紅潮させている貴族を友人に託し、レイジィの方へと駆け寄った。
 屈強な男が三人、少女を包囲している。
 ユージンは最も近い位置にいる男に向かって跳躍した。
 気配を察した男がハッと振り返る。
 ユージンが振り下ろしたサーベルは、寸でのところで男の剣に受け止められていた。
 ほぼ同時に、レイジィが別の男に向けて剣を繰り出す。
「レイジィ、いい加減になさいませ!」
「大丈夫。ちゃんと峰打ちにしてるから」
 黒髪の女の悲鳴を聞き流し、レイジィが両手に握った大剣を素早く薙ぐ。
 相対していた男はそれをまともに喰らい、数メートルも吹き飛ばされた。
 だが、その身体が血の華を咲かせることはない。
 言葉通り、彼女は峰打ちで相手を気絶させているだけなのだ。
 ――じゃ、俺も倣うべきなんだろうな。
 ユージンは即座にそう判断を下すと、渾身の力を込めて敵の剣を押し退けた。
 不意を衝かれた男が態勢を崩す。
 その隙にサーベルを逆手に持ち替え、男の鳩尾に柄の先端を叩き込んだ。
 男が呆気なく地に倒れ伏す。
 その間に、レイジィは最後の用心棒に鮮やかな回し蹴りを放っていた。
 男が凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。
「ねえアナン、この二人組は何なのよ! こいつらも敵なの?」
 アナンという連れの女に声をかけながら、レイジィがユージンの方へ顔を向ける。
 少女の青い瞳は好戦的に輝いていた。
「何言ってんだよ。俺たちはおまえを――」
 レイジィの強い視線にギョッとし、ユージンが慌てて彼女の勘違いを正そうとした時、
「ひいぃぃぃぃっっっっ!」
 情けない叫び声が耳をつんざいた。
 驚いて悲鳴の発生源を探すと、貴族が地面に尻餅をつき、恐怖に強張った表情でグラディスを見上げていた。
 貴族の剣は本人から遠く離れた場所に転がっている。グラディスが弾き飛ばしたのだろう。
「き、貴様ら、無礼だと思わんのかっ。俺はアダーシャ西方ガナンの領主、マノディーリ伯爵だぞ。それを……このような目に遭わせて無事で済むと思うなよっ!」
「領主で伯爵――それがどうしたっていうのさ。僕はみっともない貴族なんて大嫌いだね」
 グラディスが不愉快げにフンと鼻を鳴らす。
「黙れ、小僧! 俺は王になる人間なのだぞ」
「オイ、悪いけど、王になるのはこのユージン様だ。おっさんは諦めてくれ」
 ユージンが笑いながらむ口を挟むと、貴族の身体がブルブルと怒りに打ち震えた。
「き、貴様ら、無礼に過ぎるぞっ!」
「そうかな? 無礼なのは君の方だと思うけど」
 グラディスが冷ややかに告げた瞬間、奇妙なことに貴族の顔が凍りついた。
 彼は何かに気づいたように目を瞠り、グラディスを凝視する。
 怒りに赤く染まっていた顔が、見る間に色を無くしていった。
「ま……まさかっ……! そんな馬鹿な。しかし、その顔には確かに見覚えがある」
「誰と勘違いしているのか知らないけれど、僕みたいな顔の人間は何処にでもいるからね」
「嘘だ……死んだはずだ。あなたは五年も前に亡くなったと、そう噂されて――」
「知り合いかよ、グラディス」
 急に怯えだした貴族を訝しく思い、ユージンは再び口を挟んだ。
 探るような眼差しをグラディスに注ぐが、友人の美貌は石膏で塗り固められたようにピクリとも動かない。
「全く身に覚えがないね。人違いだよ」
 やがてグラディスは無感情にそう応じると、身を屈めて貴族の首筋に手刀を見舞った。
 短い呻き声を発して、貴族が仰向けに倒れる。
 そのまま微動だにしない。どうやら痛みと衝撃に耐えきれず、失神してしまったらしい。
「なあ、ホントに人違いなのかよ?」
 ユージンが質問を重ねると、グラディスはこちらを振り返り、ヒョイと肩を聳やかした。
「僕のことより自分の背後を気にした方がいいみたいだよ、ユージン。隙だらけだ」
 グラディスの唇が意地悪な笑みを象るのを見て、ユージンは慌てて身を翻した。
 黒い影が視界をよぎる。
 次いで、陽光を受けて鋭利な刃物がキラリと輝いた。
「あんたも星を狙う間抜けな余所者なのね!」
 甲高い少女の声が降ってくる。
 その瞬間、ユージンは頭上の影が高く跳躍したレイジィであることに気がついた。
 ――そういえば、まだ誤解を解いてなかった!
 半ば仰天し、半ば呆れながら、ユージンは全身の力を総動員させて真横に飛び退いた。
「あたしは星なんて持ってないわよ!」
 レイジィの叫びと共に、ユージンのすぐ脇を唸る刀身が通過する。
 轟音を響かせて、幅広の剣が地面に突き刺さった。
 レイジィは素晴らしい剛力の持ち主らしく、刀身の半分以上が地中にめり込んでいる。
 ユージンは思わず顔をひきつらせていた。
 背筋がゾッと粟立つ。
 驚異的な馬鹿力だ。
「おまえ、あいつらには手加減したくせに、俺のことは殺す気だったのかよっ!」
「うるさいわね。星のことを何も知らない余所者が玉座を狙うなんて、笑止千万。鬱陶しいから、あたしの前から消えなさいよ!」
 レイジィは完全に逆上してしまっているようだ。
 血走った双眸でユージンを睨みつけると、剣を引き抜こうと柄を両手で握り締める。
 しかし、剛力を誇る少女でも地中深く埋まった剣を引き抜くのは困難らしい。
 彼女はあっさり柄を手放すと素手でユージンに突進してきた。
 恐ろしい速さの連続蹴りが、容赦なくユージンを襲う。
 武器を持たない相手――しかも女性に対して反撃するのも気が引けたので、ユージンはひたすら防御に徹した。
「レイジィ、その方は私たちを助けて下さったのですよ!」
 アナンがレイジィを諫める。
 だがそれは、レイジィの耳を掠めもしなかったようだ。
 少女は小柄な体躯を活かし、物凄い速度で攻撃を繰り出し続けている。
 ――形振り構わずに逃げた方がいいかもな。
 ユージンは執拗な攻撃に辟易しながら大きく身を転じようとした。
 直後、レイジィの蹴りが利き手を打つ。
 強烈な痛みが腕に走り、サーベルが掌から零れ落ちる。
 驚きに息を呑んだ時には、レイジィの右手が胸部目がけて押し出されていた。
「うわっ、よせ。頼むから落ち着けよ!」
「ああ、その方ですわ、レイジィ! 彼の裡から星の輝きを感じます!」
 ユージンの悲鳴に、アナンの二度目の叫びが覆い被さる。
「――えっ? 嘘……ヤダッ!」
 レイジィが虚を衝かれたように目を丸めるが、突き出した右手を引っ込めることは最早無理のようだった。
 レイジィの掌がユージンの胸に触れる。
 その掌が黄金色に輝いているのを不思議に思う間もなく、ユージンは目に視えぬ衝撃波のようなものによって吹き飛ばされていた。



 にほんブログ村 小説ブログへ 
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト



 
Category * 星神の都
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2020 言葉のさざなみ, all rights reserved.